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求人票の労働条件を変更等する場合に必要な対応は?

改正職業安定法が平成30年1月1日より施行されていますが、ビジネスガイドの2018年1月号に野口&パートナーズ法律事務所の大浦綾子弁護士と近藤秀一弁護士による「求人票の労働条件を変更等する場合の対応」という記事が掲載されていました。

今回の改正によって、罰則も強化されていますので、企業側としては、新規採用者との間でトラブルにならないようあらためて求人票の記載方法等には注意が必要だと考えられます。

ちなみに罰則の強化内容は以下のとおりです。
①虚偽の条件を提示して、ハローワークや職業紹介事業者に求人の申し込みを行った場合の罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が設けられたこと
②求人企業等が労働条件の明治義務に違反している場合等の行政による指導監督規定(企業名公表あり)が強化された

特に企業名公表については、ハローワークに対する求人のみでなく、自社のホームページや人材紹介企業等を利用して求人を行う場合であっても、企業名公表の対象となりうるものであるという点は改めて認識しておく必要がありそうです。

さて、求人票に記載される労働条件ですが、最終的な労働条件については、応募者の経験や能力によって調整が加えられるということが多いのではないかと思われます。そのような場合に、後々のトラブルを避けるためにどうしておくべきかですが、上記の記事では、実務上のポイントとして以下の点が述べられていました。

①面接後に労働条件を決定する予定の場合は、求人票の断定的記載は避ける。
→このような場合は、以下のように面接後に決定する旨を注記し、幅のある記載が推奨されています。
「月給20万円~35万円(能力・経験等を考慮し面接後に、正式に決定」



②変更等明示の時期が重要
→遅くとも、採用決定を休職者に伝える前には明示すべき
→休職者が他社在職の場合、可能であれば前職の会社を退職する前に明示したほうがよい

③変更内容等の説明書面交付は必須
→求人票記載の労働条件を変更等した点を明示。厚生労働省の指針記載の通り、当初の明示と変更等された後の内容を対照できる書面の交付を行うべき

④面接したうえで説明したほうがベター

⑤変更理由等について質問する機会を与えるべき

⑥変更等の労働条件を前提に入社するかどうか検討する期間を休職者に付与するべき

なお上記③の説明書面の例はビジネスガイド 2018年 01 月号に掲載されていましたので、興味のあるかたはそちらをご確認ください。

また、この記事で裁判例の動向として紹介されていた「福祉事業者A苑事件(京都地裁平成29年3月30日判決・労判1164号44頁)」も注意しておいたほうがよいと思いましたので紹介しておきます。

この裁判では、求人票と雇入れ時の労働条件通知書の記載内容が異なった場合に、求人票の記載が入社後の労働条件となると判断されています。単にこれだけだと、労働者保護の点からそうなるのもおかしくないのでは?と考えられますが、この事案では、会社が最終的な条件を応募者に通知した労働条件通知書に労働者の署名押印がなされていたにもかかわらず、求人票の労働条件が優先されるという結果となっているという点に注意が必要です。

ハローワークの求人票では正社員、雇用期間の定めなし、定年制なしと記載されていたものの、面接時に会社は、契約期間は1年(有期契約)、65歳定年制と記載した労働条件通知書を労働者に提示し説明したとされています。なお、雇用期間の定めの有無については面接時に話題にあがらなかったとされています。そして、労働者はこれを拒否すると仕事が完全になくなり収入が絶たれると考え、特に内容に意を払わず、その裏面に署名押印したとされています。

判旨として、上記の記事に掲載されていた事項のなかから、主だったところをピックアップすると以下のとおりです。

「本件求人票には雇用期間の定めはなく、面接でもこの点について求人票と異なる旨の話はないまま、採用されている以上、本件労働契約は期間の定めのない労働契約である。」

「重要な労働条件変更に関する労働者の同意の有無については、(中略)労働者の自由意思に基づくものと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきである(山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19日判決)」

「本件労働条件通知書に関し、求人票と異なる労働条件とする旨やその理由を明らかにして説明したとは認められず、他方、その時点でXはすでに従前の就業先を退職してY社での就労を開始しており、これを拒否すると仕事がなくなり収入が絶たれると考えて署名押印したと認めれれる」

要は、労働条件通知書に求人票と異なる条件が記載されており、本人が確認の上、署名押印していたとしても、労働条件の変更の程度が大きく、かつ、労働者が自由意思で署名押印したと認められるのでなければ労働者が保護されるということのようです。

会社からすると結構厳しい判断のように感じます。なお、上記の判決で山梨県民信用組合事件が引用されていますが、この引用については「山梨県民信用組合事件は、あくまで既得権として確定的に存在する賃金や退職金等に関する労働条件を不利益に変更する場合の労働者の同意を判断した事案」であり、「求人票に記載された労働条件を変更して提案した場合(福祉事業者A苑事件)とはまったく事案が異なる」と解説されており、これはそのとおりだと思います。

虚偽の労働条件で労働者を募集するのはもちろん許されないと思いますが、裁判を起こすくらいの行動力がある人が、採用時に自分で署名押印しておきながら自由意思ではなかったというのは会社に酷なように思います。

いずれにしても、今後このようなトラブルに巻き込まれたないためには、求人票の記載内容および、採用時の労働条件の確認をきちんと行うように自社の採用プロセスを見直しておくことが必要だと考えられます。

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