上場会社当における会計不正ー5年で167件は氷山の一角?
2020年7月15日に日本公認会計士協会から「上場会社等における会計不正の動向(2020年版)経営研究調査会研究報告資料第7号」が公表されました。
この研究報告は、「監査や不正調査に関与する公認会計士のみならず、公認会計士以外、例えば、企業等が参考にすることを期待」して作成されたもので、2015年4月から2020年3月にかけて、各証券取引所における適時開示制度等で会計不正に関する公表のあった上場会社等167社を対象に集計、分析が実施されています。
そして、この研究報告では「留意事項」として、集計された会計不正は、適時開示基準にひっかかるものであるので金額的あるいは質的に重要であるといえるが、「これは既に発生している会計不正の氷山の一角にすぎず、会計不正の実態を示していない可能性がある」と免責条項的な文言が記載されています。
確かに、会計監査は不正発見を目的とするものではないものの、「会計不正の氷山の一角にすぎず」という表現は本当にそれでよいのだろうかという気がします。潜在的に不正が発見されていない可能性があるという程度の意味なのだとは思いますが、日本会計士協会の名前で出す資料としては、もう少し表現に気を配った方がよいと感じます。
以下、当研究報告のポイントについて確認していきます。
1.会計不正公表会社数は2020年3月期に急増
過去5年の会計不正の公表社数は、昨年までは30社前後で推移していましたが、2020年3月期は46社(ただし、このうち8社は2020年3月末時点で調査中)と過去4年と比較して大幅に増加しました。
なお、会計不正の公表数が増加した要因については、特に述べられていません。景気が悪化すれば、粉飾の誘因が増加すると考えられますが、2020年3月期においては新型コロナの影響は限定的だと考えられます。
消費税増税の影響については、新型コロナの影響に覆い隠されてしまって実態がよくわかりませんが、政府が2012年12月から始まった景気拡大局面が後退に転じたと従来の見解を変更したとおり、直近ではそれほど景気がよいという状態ではなかったということかもしれません。
2.5年平均で約8割が粉飾決算
この研究報告では、会計不正を「粉飾決算」と「資産流用」に区分しており、両者が明確に区分できないものは「粉飾決算」に集計されているとされています。なお、一般的には、「粉飾決算」の方が影響額が大きくなるとされています。
2020年3月期は、件数ベースで粉飾決算の割合が84.2%であったとのことです。
粉飾決算の手口別の集計として、収益関連科目は会社のとって重要な指標であることから、売上の過大計上、循環取引、工事進行基準等の会計不正の公表が多いとされています(5年平均で36.6%)。なお、2020年3月期は、公表された粉飾決算のうち25.9%が収益関連の会計不正であったとのことです。
ただし、その他の項目として、「架空仕入・原価操作」、「在庫の過大計上」、「経費の繰延べ」も件数は多く、これらを原価、費用系の過少計上と括れば、むしろ収益関連の会計不正よりもメジャーといえるかもしれません。会社(特に成長をアピールしている会社)にとってトップラインは確かに重要ですが、売上がいくらあっても利益がないと意味がないので、費用・原価を過少計上するという方向での粉飾も当然件数としては多くなると考えられます。
3.業種別件数では実質的には建設業が要注意
当研究報告では、業種別に件数が集計されており、過去5年平均では、卸売業、サービス業がそれぞれ21件で構成比12.6%で最多、次いで建設業が18社(10.8%)、電気機器が16社(9.6%)、情報・通信業が13社(7.8%)となっている旨が記載されています。
全体母数が異なるところの件数を比較しても実態がよく分からないので、業種別の集計件数を日本取引所が公表している2020年7月の規模別業種別PER・PBRから業種別の上場会社企業数で除した割合を計算してみると、建設業が18/159=0.113で、次いで大きい卸売業21/313=0.067、電気機器16/241=0.066と比較して、特に大きくなっていました。
業種の母数を踏まえて考えた場合には、建設業での粉飾決算割合が相対的に高いといえそうです。
4.上場市場別にみた場合、それほど目立った傾向はない
上場している市場別に、会計不正を公表した会社の件数を集計すると、件数的には東証1部の件数が最多となっています。ただし、東証1部・2部を本則市場、マザーズ・ジャスダックを新興市場とまとめて、上場企業数の割合と、会計不正を公表した会社数の割合を比較すると、本則市場の上場企業数割合72%に対して、会計不正会社数の内訳割合が69.9%、新興市場の上場企業数割合28.0%に対して、会計不正会社数の内訳割合が30.1%であり、有意な傾向は観測できなかったとされています。
5.会計不正の発覚経路・関与者
会計不正の発覚経路は、「内部統制等」が45件と最多となっています。「公認会計士監査」は23件である一方、税務調査や証券取引等監視委員会などの調査が含まれる「当局の調査等」は27件となっています。
強制力の有無が影響しているのか、税務調査や証券取引等監視委員会などの調査は種狙い撃ちの調査であることも多いので件数が多くなるということなのかも知れません。
なお、「内部監査」は8件と、意外に少ない結果となっています。これも原因の分析については特に触れられていませんが、内部監査はどちらかといえば業務監査中心だからということなのかもしれません。
誰が会計不正に関与しているのかについては、役員・管理職が多く、かつ、単独で行うというよりは、内部者や外部者と共謀して会計不正を行うケースが多いとされています。内部者との共謀というのは、内部統制が無効化される可能性が高いものですが、前述のとおり、会計不正の発覚経路として内部統制等が最多となっているというのは興味深いところです。
6.会計不正と内部統制報告書の訂正の関係
会計不正を公表した会社が、内部統制報告書を訂正する割合は、おおむね50%程度で推移しています。2020年3月期は、47.8%で過去5年で最も小さい割合となっていますが、前年が48.5%ですので、誤差の範囲だと考えられます。