収益認識会計基準-表示・注記事項の改正確認
2020年3月31日に「収益認識に関する会計基準」等が改正され、後で定めるとされていた表示や注記事項の改正がなされましたが、内容をきちんと確認していなかったので、確認することとしました。/p>
1.表示
(1)損益計算書科目について
顧客との契約から生じる収益の額を適切な科目をもって損益計算書に表示するか、又は注記するとされています(基準78-2)。多くの会社は、顧客との契約から生じる収益について、それ以外の収益と区分して損益計算書hに表示するという表示方法をとるのではないかと考えられますが、両者を区分して損益計算書に表示しない場合には、顧客との契約から生じる収益の額を注記することとされています。
適用指針の改正により、顧客との契約から生じる収益を表示する科目として、「売上高、売上収益。営業収益」等が例示されています(適用指針104-2)。
また、顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)を損益計算書において区分して表示するとされました(基準78-3)。
(2)貸借対照表科目について
契約資産と顧客との契約から生じる債権のそれぞれについて、適切な科目をもって貸借対照表に他の資産と区分して表示するか、貸借対照表に他の資産と区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記することとされています(基準79)。
適用指針の改正により、適切な科目の例示として以下が示されています(適用指針104-3)。
①契約資産・・・契約資産、工事未収入金等
②契約負債・・・契約負債、前受金等
③顧客との契約から生じた債権・・・売掛金、営業債権等
2.注記
(1)重要な会計方針の注記
顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、以下の事項の注記が求められています(基準80-2)。なお、重要な会計方針として注記する内容は以下の2項目に限定されているわけではなく、他に重要な会計方針に含まれると判断した内容があれば注記することが求められています(基準80-3)。
①企業の主要な事業における主な履行義務の内容
②企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
(2)収益認識に関する注記
収益認識に関する注記について、IFRS15と同様の開示目的及び重要性の定めが設けられており、開示目的を達成するために必要な注記事項の開示の要否を、企業の実態に応じて企業自身で判断することとされています。
財務諸表の注記は、各会計基準に定める個々の注記事項の区分に従って注記事項の記載がなされていることが多いですが、収益認識に関する注記を記載するにあたっては、収益認識会計基準等で示す注記事項の区分に従って注記事項を記載する必要はないとされています(基準80-7)。また、重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことができるとされ(基準80-8)、財務諸表における他の注記事項に含めて記載している場合には、当該他の注記事項を参照することができるとされています(基準80-9)。
「開示目的」は、「顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするため十分な情報を企業が開示すること」とされています(基準80-4)。
具体的には、以下の項目を開示することとされています。ただし、以下の項目のうち、開示目的に照らして重要性が乏しいと認められる注記事項については記載しないことができるとされています(基準80-5)。なお、重要性の判断にあたっては、定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮する必要があり、定量的な要因のみで判断した場合には重要性がないと言えない場合であっても、開示目的に照らして重要性に乏しいと判断される場合もあると考えられるとされています(基準168)。
①収益の分解情報
②収益を理解するための基礎となる情報
③当期及び翌期の収益の金額を理解するための情報
①収益の分解情報
当期に認識した顧客との契約から生じる収益について、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及び主要な要因に基づく区分に分解した情報を注記すること求められています(基準80-10)。また、この注記は、報告セグメントについて開示する売上高との関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記することとされています(基準80-11)。
ただし、既存のセグメント情報におけるセグメントの区分が、上記で注記が求められている収益を分解する区分に適うと判断される場合など、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及び主要な要因に基づく区分に分解した情報として十分であると判断される場合には、セグメント情報に追加して収益の分解情報を注記する必要はないものと考えられるとされています(適用指針191)。
設例の後ろに追加された開示例を参考にすると、「収益認識の時期」については、「一時点で移転される財」と「一定の期間にわたり移転されるサービス」に区分して記載するということが考えられます。
また、収益を分解するための区分としては、以下の様な視点が例示されています(適用指針106-5)。
a. 財又はサービスの種類(例えば、主要な製品ライン)
b. 地理的区分(例えば、国または地域)
c. 市場又は顧客の種類(例えば、政府と政府以外の顧客)
d. 契約の種類(例えば、固定価格と実費精算契約)
e. 契約期間(例えば、短期契約と長期契約)
f. 財又はサービスの移転の時期(例えば、一時点で顧客に移転される財又はサービスから生じる収益と一定の期間にわたり移転される財又はサービスから生じる収益)
g. 販売経路(例えば、消費者に直接販売される財と仲介業者を通じて販売される財)
②収益を理解するための基礎となる情報
ここでは以下の事項を注記することが求められています。
1)契約及び履行義務に関する情報(ステップ1,2)
(a)履行義務に関する情報
・履行義務の内容(企業が顧客に移転することを約束した財又はサービスの内容)
・以下の内容が契約に含まれる場合はその内容
a.財又はサービスが当の当事者により顧客に提供されるように手配する履行義務
b.返品、返金及びその他の類似の義務
c.財又はサービスに対する保証及び関連する義務
(b)重要な支払条件に関する情報
2)取引価格の算定に関する情報(ステップ3)
(a)変動対価の算定
(b)変動対価の見積が制限される場合のその評価
(c)返品、返金の及びその他の類似の義務の算定
3)履行義務への配分額の算定に関する情報(ステップ4)
取引価格の配分に用いた見積方法、インプット及び仮定に関する情報。例えば、
・独立販売価格の見積り
・値引きや変動対価の配分を行っている場合の取引価格の配分 など
4)履行義務の充足時点に関する情報(ステップ5)
(a)履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
(b)履行義務の充足の時期の決定
5)本会計基準の適用における重要な判断
本会計基準を適用する際に行った判断及び判断の変更のうち、顧客との契約から生じる収益の金額及び時期の決定に重要な影響を与えるもの
③当期及び翌期の収益の金額を理解するための情報
1)契約資産及び契約負債の残高等
以下の事項と注記することとされています(基準80-20)。
(a)顧客との契約から生じる債権、契約資産及び契約負債の期首残高及び期末残高(区分表示していない場合)
(b)当期に認識した収益の額のうち期首現在の契約負債残高に含まれていた額
(c)当期中の契約資産及び契約負債の残高の重要な変動がある場合のその内容
(d)履行義務の充足の時期が通常の支払時期にどのように関連するか並びにそれらの要因が契約資産及び契約負債の残高に与える影響の説明
(c)について、IFRS15号では、定性的情報と定量的情報を含めなければならないとされているが、本会計基準等では、当該注記には必ずしも定量的情報を含める必要はないとされています。
2)残存履行義務に配分した取引価格
既存の契約から翌期以降に認識することが見込まれる収益の金額及び時期について理解できるよう、残存履行義務に関して以下の事項を注記することとされています(基準80-21)。
(a)当期末時点で未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引係るの総額
(b)(a)に従って注記した金額を、企業がいつ収益として認識すると見込んでいるのか、次のいずれかの方法により注記する。
i. 残存履行義務の残存期間に最も適した期間による定量的情報を使用した方法
ii.定性的情報を使用した方法
ただし、IFRS15号および米国会計基準のTopic606「顧客との契約から生じる収益」の定めを踏まえ、以下の様に注記に含めないことができる事項等が定められています(基準80-22)。
(a)履行義務が、当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である場合
(b)履行義務の充足から生じる収益を適用指針19項(※)に従って認識している場合
(c)以下のいずれかの条件を満たす変動対価である場合
i. 売上高又は使用量に基づくロイヤルティ(適用指針67項)
ii.基準72項の要件に従って、完全に未充足の履行義務に配分される変動対価
上記(c)ii.の「完全に未充足の履行義務」という表現は、72項にそのまま登場する表現ではありませんが、要は未充足の単一の履行義務(あるいは財・サービス)に配分されることとなる変動対価を意味しています。
なお、上記(基準80-22)に該当することにより注記に含めないものがある場合には、履行義務の内容(変動対価である場合には、加えて、残存する契約期間、変動対価の概要)を注記することとされています(基準80-24)。
※適用指針19項
提供したサービスの時間に基づき固定額を請求する契約等、現在までに企業の履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する額を顧客から受け取る権利を有している場合には、請求する権利を有している金額で収益を認識することができる。
(開示例では、1時間あたり2500円を支払う契約に基づく清掃サービスの例が挙げられています。)
3.個別財務諸表、四半期財務諸表における取扱い
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては「1.表示」で述べた定めを適用しないことができるとされています(基準80-25)。また、収益認識に関する注記のうち「収益の分解情報」及び「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」について注記の省略が認められ、「収益を理解するための基礎となる情報」については、連結財務諸表における記載を参照することができるとされています(基準8-26,27)。
四半期財務諸表においては、「収益の分解情報に関する事項」のみ以下の事項について注記が求められています。
①顧客との契約から生じる収益について、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報
②①に従って開示する収益の分解情報と、報告セグメントの売上高との間の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための情報
ただし、①及び②の事項は、セグメント情報等に関する事項に含めて記載している場合には、当該注記事項を参照することにより記載に代えることができるとされています。