国税庁が白色申告の帳簿不作成に問題意識-罰則化に向かうか?
T&A mastr NO.894で、2021年8月10日に開催された「納税環境整備に関する専門家会合」で検討された事項について取り上げられていました。
この記事では「国税庁が白色申告における無申告など、記帳水準の低い納税者に対して強い問題意識を持っていることが分かった」とされています。また、国税庁は記帳の状況などに関する税務執行上の課題として以下の点を説明したとのことです。
白色申告については、記帳義務はあるものの特に罰則はないため、帳簿書類を破棄しているのか、あるいは帳簿書類を作成していないかの区別が困難であり、重加算税が賦課できないケースがある。
これらについては、今に始まったことではなく、従来から問題意識はあったでしょうし、帳簿が元々あったのかどうかについて判断しにくいケースも多くあったはずです。
ですが、「専門家会合では、白色申告における帳簿書類の不作成・不保存に対して罰則を課すべきとの意見もでており、今後の税制改正に影響を及ぼす可能性もありそうだ」とされており、罰則化が実現すればそれなりに影響はありそうです。
実際どれくらいの人に影響があるのだろうかという点については、平成30年分確定申告を行った個人事業者の申告状況によると、青色申告60%(正規簿記:29.7%、簡易簿記30.3%)、白色申告40%とのことです。近年ではクラウド系のサービスも増加しており、より簡単に記帳が行えるようになっているといわれていますが、正規の簿記による青色申告は全体の3割程度に過ぎないようです。もっとも、クラウドサービスの利用は年々増加しているようですので、直近の状況では正規の簿記による青色申告の割合が多少増加しているかもしれません。
平成30年分における申告誤り等の状況では、意図しない誤りを含む「申告誤り」が税務調査で見るかる割合は白色申告が88.4%と最も高いものの、「仮装隠蔽」については青色申告の簡易簿記が8.8%と最も高く、白色申告の7.9%を上回っているそうです。
両者にそれほど大きな差があるわけではなく、白色申告だと税務署に目を付けられそうで怖いけど、正規の簿記で記帳すると仮装隠蔽が難しい(あるいはすぐに発覚しそう)ので簡易簿記を選択しているというケースがあるのかもしれませんが、単に白色申告だと仮装隠蔽が発覚しにくためという可能性の方が高いと思われます。
税務当局は、「本来であれば仮装隠蔽として重加算税を課さなければならないケースが一定数存在している」と認識しており、「帳簿書類がないことがむしろ有利に働くケースがあることに強い問題意識を示している」とのことです。また、「帳簿書類を作成しなくても、推計課税により同業者と同程度の必要経費が認められる点も問題意識としてあるようだ」とされています。
青色申告には白色申告にないメリットがいくつかありますが、「仮装隠蔽」を意図している場合は、青色申告のメリットは、「仮装隠蔽」が発覚しにくい白色申告のメリットに遠く及ばないということになってしまうのだと思われます。
このような状況をうけ、「専門家会合では、白色申告者の帳簿書類の不作成・不存在に関して罰則を設けるべきとの意見が出ている」とされ、令和3年度税制大綱では「記帳水準の向上、・・・・、記帳義務の敵影な履行を担保するためのデジタル社会にふさわしい諸制度の在り方…について早期に検討を行い、結論を得る」とされていることから、税制改正に影響を及ぼす可能性もありそうだとのことです。
さて、どうなることやら・・・