株式交付制度(その2)-疑問点の確認
“株式交付制度(その1)-制度概要など“で、ざっと概要を確認したところで、思いついた疑問点を二つ確認してみました。
1.株式交付で結果として100%株式を取得は可能か?
株式交付は他社を子会社化することを目的とするわけですが、例えば、子会社化しようとする主要株主とは合意ができていて60%は株式交付で株式を取得することが確実な状況で、残り40%の株主については、株式交付に応じるかどうか不明というような場合において、結果的にすべての株主から譲渡しの申し込みがあり、すべての株式を取得するというようなことは認められるのかが問題となります。
100%子会社化するのであれば、株式交換を行うことが想定されるところ、株式交付でこれを代替するような形となっても問題ないのかという疑問です。
この点については、「株式交付において、株式交付子会社の発行済株式の全部について譲渡しの申し込み等があり、当該交付親会社がその全部を取得することは妨げられない」(「一問一答 令和元年改正会社法」竹林俊憲著 P190)とされているので、結果的に100%子会社となったからといって特に問題はないという理解でよいようです。
2.子会社が他の子会社の株式を株式交付で取得は可能?
株式交付は、他の会社を「子会社とする」ための仕組みのため、すでに子会社化している会社の持分を追加で取得するというような場合には使用できないということになります。
これが認められない理由は、株式交付は親子会社関係を円滑に創設することができるようにする制度であるところ、既に議決権の過半数を有している他の株式会社株式を買い増す場合や、他の株式会社をその子会社としようとしない場合については、株式交換その他の組織法上の行為と同様であると整理することが困難であると考えられるためとされています。
また、保有割合を5%から10%に買い増す場合に、検査役の調査などの規律の適用外とするのは、他の株主の利益を防止するという観点から慎重に検討する必要があり、これは70%から75%に買い増す場合も同様であると考えられるため、あくまで他の株式会社を新たに子会社としようとする場合に限り株式交付を用いることができるとされています。
さて、P社(親会社)がX社(100%)、Y社(70%)という二つの子会社を有している場合、X社がY社の株式を株式交付によって取得し子会社化することはできるのかが問題となります。
株式交付において「子会社とする」というのは、他の会社等の議決権の総数に対する自己(その子会社を含む)の計算において所有している議決権の数の割合が100分の50を超えるようにすることとされています。上記のケースの場合、X社はY社の議決権を一切保有していませんので、X社がY社の株式をP社から株式交付によって取得することに問題はないということになります。
Y社のP社株式のみをX社が取得し、X社株式をP社に交付したとすると、P社→X社(100%)→Y社(70%)という関係が出来上がることとなります。つまり、兄弟会社を株式交付を使用して親-子-孫に再編することは可能ということです。
一方で、このような関係となった場合、P社とY社に直接の持株関係はありませんが、株式交付によって「子会社とする」とは、子会社が保有する割合も含めたうえで子会社でない会社を子会社にする場合を意味するので、Y社をもとの形に戻すため株式交付を使用することはできないということになります。
3.一部を先に現金取得、残りを株式交付は可能か
例えば、ある会社の80%の株式を取得することを意図している場合に、株主側が一部は現金対価での取得を希望している場合や、株式交付親会社サイドで相手会社の株主の保有割合が高くなりすぎると感じているというようなケースがあったとします。この場合、株式交付として、株式交付親会社の株式と現金を対価とすることは可能ですが、現金対価が交付される場合には、基本的に債権者保護手続きが必要になります。
このような場合、相手方との交渉になりますが、例えば取得を予定する株式のうち40%を先に現金対価で取得し、その後、残り40%を株式交付で取得するということが可能かが問題となります。当初から意図された取引なわけですが、最初に40%取得した時点では子会社でないので、子会社化する為に残り40%を株式交付で取得するということは株式交付の条文上は可能だと思われます。しかしながら、一方で最初から株式+現金対価で株式交付を行っていた場合に債権者保護手続が必要となるのであれば、その脱法行為とみられてしまうのではないかという懸念もあります。
株式交付を、株式+現金対価で実施する場合(株式交付親会社の株式及びそれに準ずるものとして法務省令で定めるもの以外の財産を交付する場合)に債権者保護手続きが必要となるのは、「株式以外の財産を交付するときは、対価が不当であるとすると、株式交付親会社から不当な財産の流出が生じ、債権者を害することとなる」ため(「一問一答 令和元年改正会社法」竹林俊憲著 P208)とされています。
これはなるほどと思う一方で、仮に取得予定株式を現金のみを対価として取得するとした場合には、通常の株式取得であり、債権者保護手続は特に求められていないことからすると本当に必要なのかなという感じもします。条文で定められている以上、該当する場合には債権者保護手続をとるしかないわけですが、先行して一部を現金で取得し、残りを株式交付によるというケースの場合には、株式交付として処理する部分で株式のみが交付されるのであれば債権者保護手続は不要と判断してよいのではないかと思われます。
この点、”「株式交付」活用の手引き(金子登志雄著)”に「株式交付計画規定の解釈」Q&Aの一つに以下のQ&Aが掲載されていました(P34)。
Q2:譲受け株式数の下限を総株主の議決権の35%の株式数に設定すると子会社化できませんが、株式交付子会社の株主の一部から、総株主の議決権の20%につき売却の確約を得ていますので、「ただし、効力発生日までに、当社が〇〇株(20%相当)以上を所有済みであることを条件とする」と定めれば、問題ないでしょうか。
A2:会社法774条の3第2項に、株式交付計画に定める譲受の下限株式数は、「株式交付子会社が効力発生日において株式交付親会社の子会社となる数を内容とするものでなければならない」とあり、効力発生日基準ですし、条件付きであれば問題ないと考えます。
債権者保護手続については特に述べられていませんが、一部を先に現金対価で取得後、株式交付で子会社化するという利用方法については特に問題ないということだと思われます。
次回以降は、具体的な手続きについて確認していこうと思います。