非財務情報開示強化に向けた動向
人的資本等の開示が2023年3月期以降義務化されるようです(経営財務3559号「政府 人的資本等の開示は2023年3月期以降義務化へ」)。
ただし、義務化されるとされているのは女性活躍推進法に基づく男女間の賃金差異の開示で、概要は以下の通りとなっています(「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」2022年6月7日閣議決定)。
開示対象:常時雇用する従業員301人以上の事業主(101人~300人の事業主については、今後検討)。単体ベース。
開示内容:全労働者の「男性の賃金に対する女性の賃金の割合」。正規・非正規雇用に分けた情報も求められる。その他さらに細かい雇用管理区分の使用も可能。
改正時期については、制度(省令)改正を実施し、初回の開示は、他の情報開示とあわせて、2022年7月の施行後に終了する事業年度の実績を開示するとされています。
上記は、女性活躍推進法に基づく開示ですが、有価証券報告書の記載事項にも、女性活躍推進法に基づく開示の記載と同様のものを開示するように求めるとされています。
人的資本の開示については、実行計画の中で以下の様に述べられています。
米国市場の企業価値評価においては、無形資産(人的資本や知的財産資本の量や質、ビジネスモデル、将来の競争力に対する期待等)に対する評価が大宗を占める。これに対し、日本市場では、依然として有形資産に対する評価の比率が高く、企業から株式市場に対して、人的資本など非財務情報を見える化する意義が大きい。本年内に、金融商品取引法上の有価証券報告書において、人材育成方針や社内環境整備方針、これらを表現する指標や目標の記載を求める等、非財務情報の開示強化を進める。
特に、成長企業において、無形資産の価値が評価額の大部分を占めるというのはそうなのだと思いますが、「日本市場では、依然として有形資産に対する評価の比率が高く」というのはPBRが1倍を下回っている企業が相当数ある中で、本当かなという気はするものの、結論としては「有価証券報告書において、人材育成方針や社内環境整備方針、これらを表現する指標や目標の記載」などが求められる様になるようです。
この他、サステナビリティ情報に関する開示についても、早ければ2023年3月期の有価証券報告書から開示が求められる可能性があるようです。ただし、サステナビリティ開示基準の開発を担うサステナビリティ基準委員会(SSBJ)の設立が2022年7月1日とされていますので、基準に基づく開示は、早期適用ありで、2024年3月期の有価証券報告書から強制適用くらいに落ち着くのではないかと個人的には予想しています。
なお、IFRS財団が設立した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2022年3月31日にIFRSサステナビリティ開示基準第1号「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」、第2号「気候関連開示」の公開草案を公表しており、コメント期限は7月29日までとなっており、2022年末までに基準を最終化する予定(適用日は未定)とのことです。
気候関連の開示については第2号に従い、それ以外の項目については、別個の基準ができるまで第1号の全般的要求事項を踏まえた開示が求められることになるようです。各サステナビリティ項目は、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの構成要素から開示が要求されています。
国内のディスクロージャーワーキンググループの報告書(案)でも、有価証券報告書で上記の4項目に関して開示を求めていく方向性は同様のようですが、開示負担を勘案のうえ、当初の開示項目としては「ガバナンス」と「リスク管理」はすべての企業が開示し、「戦略」と「指標と目標」については各企業が重要性を判断して開示することとされています。
基準に基づく開示は設定のタイミングから24年3月期以降からとなるのではないかというのは前述のとおりですが、DWGの報告書(案)では、当初の開示事項はISSBの基準よりも緩和されているので、とりあえず省令の改正で記載事項が追加され、サステナビリティ開示についても23年3月期からある程度の開示が義務化されるということもある程度は想定しておいたほうが良さそうです。