FA(ファイナンシャル・アドバイザー)への報酬の会計処理-オリンパス社の事例から
今回は、最近話題となっているオリンパスに関連し、そこで話題となっているFA(ファイナンシャル・アドバイザー)への報酬の会計処理についてです。
企業結合会計基準第26項では「取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用として処理する」とされています。
したがって、「企業結合に直接要した支出額」でかつ「取得の対価性」が認められればFAへの報酬も取得原価に含めて処理されます。個別財務諸表上は子会社株式の金額が大きくなることになりますが、プレミアをつけて買収していることを前提とすると、連結財務諸表では取得原価に含めたFA等の報酬分だけ「のれん」が大きくなるということになります。
それでは、「企業結合に直接要した支出額」及び「取得の対価性」とは何かですが、この点については「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(企業会計基準適用指針第10号)」48項で以下のように説明されています。
(1) 企業結合に直接要した支出額
企業結合を成立させるために取得企業が外部のアドバイザー(例えば投資銀行のコンサルタント、弁護士、公認会計士、不動産鑑定士等の専門家)に支払った交渉や株式の交換比率の算定に係る特定の報酬・手数料等
(2) 取得の対価性が認められるもの
現実に契約に至った企業結合に関連する支出額のことをいう。したがって、契約に至らなかった取引や単なる調査に関連する支出額は、企業結合に直接要した費用であっても取得原価に含めることはできない。
上記の要件からすれば、買収が成立した場合のFAへの報酬は、基本的には取得原価に含めて処理することになるものと考えられます。
ところで、オリンパス社の2009年(平成21年)3月期の有価証券報告の連結PL注記で、前期損益修正155億円の説明として以下のように注記されています。
「手数料等の支出額が最終的に決定し取得原価の配分が完了したため」費用処理すべき金額を費用処理したということですが、好意的に解釈すれば、費消処理すべき手数料等は前期も費用として計上していたが、最終的に確定した手数料等の金額が前期に費用処理した金額よりも155億円大きかったので本来前期に計上すべきものとして前期損益修正として処理したということになります。
ただ、155億円も費用処理すべき手数料を見積り誤るというのは一般的には考えにくいと思います。だとすると、当初取得原価に含めて処理(つまり「のれん」として計上)する予定であったFA等への手数料を最終的に“対価性なし”として費用処理することになったと考える方が自然といえ、この処理を巡って当時の監査法人(あずさ)と対立し、監査法人の変更(新日本)につながったという噂が信憑性を帯びてきます。
昨日の報道によると、690億円と言われているFA報酬の内訳は以下のようになっているようです。
①07年6月の契約に基づくコンサルティング手数料約244億円
(内訳)
・現金による報酬12億円(基本報酬の5億円は除く)
・ワラント(新株予約権)50億円
・オプション(株式購入権)177億円(このオプションについては、FA側の希望により買い取り対価として、08年9月に同額の優先株が発行されています)
なお、企業結合に直接要した支出額として、現金に代えて自社の株式又は新株予約権を交付した場合には、その測定は、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」第14項及び第15項に準じて行うこととされています。
②優先株の買取額と発行価額の差額 443億円(620億円-177億円)
FA側から優先株の買い取り要求により、ジャイラスの事業価値を再評価し、10年3月に優先株を620億円で買い取り
上記の有価証券報告書は2009年3月期のものですから上記の①に関連する手数料によるものと推測されます。
上記②については、オリンパス社の川又洋仲取締役執行役員が27日の記者会見で「配当優先株買い取りで410億円追加で(「のれん」として)計上している」と説明したとのことですので費用ではなく「のれん」として計上されています。
上記の経緯からすれば、①の大部分(?)は費用、②の大部分は「のれん」ですが、一連の流れでみれば実質的には手数料の一部が異なる処理となっていること、さらに①と②の処理当時の監査法人が変更されていることから、なんだか怪しいと感じるのが一般的な感覚ではないかと思います。
今後、真相が究明されていくことと思いますので注目です。現状では、FAに手玉に取られて法外な報酬を支払った日本人経営陣とその責任を追及して退陣を迫った前社長という構図がしっくりきます。
日々成長