長期借入金の時価って・・・ 毎回疑問に思うこと
3月決算の場合、平成22年3月期から金融商品の時価の開示が開始されており、過去2回開示を行っているわけですが、毎回、長期借入金の時価で文句を言いたくなります。
「本当にこんな情報を一般事業会社の投資家が知りたいの?」と・・・・
この点については、「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」第11項において、「借入金などの金銭債務の時価情報の注記については、特に当該金銭債務を負っている企業自身の信用リスクが増加した場合にその時価が減少するため、投資者にとって有用な情報を提供することにはならないのではないかという見方がある」とされつつも、「金銭債務の時価を注記することは当該時価を財務諸表に反映することとは異なること、また、当該企業の資金調達活動の一端を外部に示すこととなるため意義があるという意見があること、さらに、国際的な会計基準では開示するとしていること」から開示対象とすると説明されています。
「投資家にとって有用な情報を提供することにはならないのではないか」という意見に対して、単なる注記だからというのはそもそも答えになっていない気がしますし、借入金の時価が資金調達活動の一端を示すとしても、開示しなければならないほど重要な一端だとは思えません。
要は、「国際的な会計基準で開示するとしているから」というだけの理由であるというのが本当のところだと思います。
実際の開示例を調べてみると、長期借入金の簿価が時価を上回っている会社が散見されます。以下に有報提出会社の直近(平成24年1月決算)の事例を2社だけ示すと、
①サイボウズ(平成24年1月期)
②ながの東急百貨店(平成24年1月期)
長期借入金の時価の算定方法は、「元利金の合計額を、同様の新規借入を行った場合に想定される利率で割り引いた現在価値により算定しております」というような方法が一般的です。
つまり、評価対象の借入金から生じる将来キャッシュアウト・フローが一定とした場合、現在ならいくら借りられるかを借入金の時価としているということだといえそうです。
仮に、評価対象の借入金を借入れた時点よりも財務内容が悪化していた場合には、貸し手はより高い利率を要求してくるので、借入金元本は小さく計算されることになり、
借入金の帳簿価額>時価
という現象が生じます。
また、信用リスクが変化していなかったとして、市場金利が上昇していれば、やはり同額のキャッシュ・アウトフローから計算される元本相当額は小さく計算されるため、借入金の帳簿価額が時価よりも大きくなると考えられます。
ところで、時価とは、「公正な評価額であり、取引を実行するために必要な知識をもつ自発的な独立第三者の当事者が取引を行うと想定した場合の取引価額である」とされています。
この定義からすると、長期借入金の時価といった場合、通常、長期借入金に市場性はないので、評価対象の長期借入金を自発的な独立第三者に引き受けてもらうのにいくら支払わなければならないかが時価になるのではないかと考えられます。
しかしながら、実務的には「元利金の合計額を、同様の新規借入を行った場合に想定される利率で割り引いた現在価値」で計算されています。
長期借入金は、銀行等の貸し手側からすれば長期貸付金となりますが、同一のものに対して見る方向が異なるだけですので、借り手からみた長期借入金の時価=貸し手からみた長期貸付金の時価という関係が成立していると考えると、「元利金の合計額を、同様の新規借入を行った場合に想定される利率で割り引いた現在価値」が借入金の時価であるということになるということだと思います。
実務的には、現在同様の借入を行った時の利率なんてものを銀行が教えてくれませんので、この方法ですら工夫が必要なことがほとんどではないかと思いますが、長期借入金の時価=貸し手からみた長期貸付金の時価という関係は本当に成立するのだろうかというのは疑問です。
例えば、長期借入金の帳簿価額が1000万円で、注記で開示されている時価が990万円であったとします。この場合、銀行に990万円返済しても当然ですが、借入金が完済されたことにはなりません。
このように考えるとこのような時価の意味がよくわからなくなります。
企業自身の信用リスクを反映しない金額も任意で開示することができるとした結論の背景を示した「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」の第38項(2)で「・・・通常、金銭債務の場合には市場性がなく、企業自身と同じ信用力の第三者に引き受けてもらうための取引費用等も考慮すれば、実際に移転可能な金額は無リスクの利子率で割り引いた金額に近似する。」とされていることからすると、時価の開示をどうしても必要とするのであれば、これを追加で開示できる事項とするのではなく、注記すべき金額とすればいいのではないかと思えてなりません。
日々成長。