国税通則法の改正による税務調査手続の明確化(その2)
今回は、”国税通則法の改正による税務調査手続の明確化(その1)”の続きで、国税通則法の改正にあわせて明確化された「調査」の意義から確認します。
「調査」に該当するかどうかで異なるのは、加算税の取扱いです。調査に該当しない場合は、原則として加算税が適用されないか、あるいは軽減されます。
したがって、修正申告等による税負担を考えると、「調査」に該当するのかどうかは納税者にとって大きな意味を持つことになります。
1.「調査」の意義
「調査」とは、国税に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用などをいう。ただし、相続税・贈与税の徴収のために行う一連の行為は含まれないとされています。(国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達”(以下「手続通達」といいます)1-1)。
調査に該当しない行為の具体例が、手続通達1-2であげられているので、調査に該当するものと調査に該当しない行為をまとめると以下のようになります。
調査に該当する行為 |
調査に該当しない行為 |
---|---|
(1)更正決定等を目的とする一連の行為
(2)異議決定や申請等の審査のために行う一連の行為 (3)調査には該当するが、事前通知及び終了通知が行われないもの |
(1)提出された納税申告書の自発的な見直しを要請する行為
(2)税法の適用誤りがある納税義務者に対して、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為 (3)納税申告書の提出がない納税義務者に対して、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請する行為 (4)源泉徴収税額の納税額に過不足徴収額がある納税義務者に対して、源泉徴収額の自主納付等を要請する行為 (5)源泉徴収税額の納税がない徴収義務者に対して、必要に応じて源泉徴収税額の自主納付を要請する行為 |
2.適用される加算税の比較
前述のとおり、「調査」に該当するか否かによって、その後の加算税の取扱いに差が生じます。これは、国税通則法において、「修正申告書の提出があつた場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」について、加算税を減免する規定が設けられていることによります(国税通則法65条5号等)。
つまり、「調査」でなく「行政指導」に該当する場合は、「更正があるべきことを予知してされたもの」には該当しないということになります。
加算税の種類ごとに、調査に該当した場合の原則的な税率と「更正があるべきことを予知してされたもの」には該当しない場合の税率を比較すると以下のようになります。
加算税の種類 |
調査に該当 |
自発的な修正申告 |
---|---|---|
過少申告加算税 |
増差差額×10% (国税通則法65条1項) |
適用なし (国税通則法65条5項) |
無申告加算税 |
納付税額×15% (国税通則法66条1項) |
納付税額×5% (国税通則法66条5項) |
不納付加算税 |
納付税額×10% (国税通則法67条1項) |
納付税額×5% (国税通則法67条2項) |
上記からわかるとおり「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しない場合には、過少申告加算税と無申告加算税は追加税額の10%、不納付加算税の場合は追加税額の5%が軽減されます。
また、税率が軽減される場合、重加算税の賦課も免除されています(国税通則法68条1項括弧書き)ので、「調査」に該当するか否かで実際の納付額に大きな影響があるといえます。
3.「更正があるべきことを予知してされたもの」とは?
”1.「調査」の意義”で調査に該当しないものとして手続通達に示されている例は紹介しましたが、これは例にすぎないため、そもそも「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当するか否かをどのように考えるのかが問題となります。
この点については学説上争いがあり、多数説は端緒把握説に立つのに対して、課税実務では調査着手説に極めて近い見解が示されています。
①端緒把握説
端緒把握説とは、単に調査担当職員が調査を開始したというだけでは更正の予知があったと解すべきではなく、当該職員が、何らかの非違の端緒となるもの、もしくは申告が不適切であるということを発見するに足りるか、もしくは端緒にあたるような資料を発見する段階以前に提出された修正申告書については、更正を予知して提出された修正申告書ではないため加算税を課すべきではないとする考え方のことです。
②調査着手説
調査着手説とは、納税義務者が知りうる調査開始以後の段階において提出された修正申告書に対しては加算税が課せられるべきと考える見解のことです。
まず、課税実務上の考え方について確認します。平成12年7月3日の通達である「申告所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」では以下のように述べられています。
通則法第65条第5項の規定を適用する場合において、その納税者に対する臨場調査、その納税者の取引先に対する反面調査又はその納税者の申告書の内容を検討した上での非違事項の指摘等により、当該納税者が調査のあったことを了知したと認められた後に修正申告書が提出された場合の当該修正申告書の提出は、原則として、同項に規定する「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当する。
(注) 臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として、「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しない。
故意であっても故意でなくても誤りは誤りですが、上記からすると故意に申告を誤っていた場合に、臨場のための日時の連絡があった段階で修正申告書を提出すれば、原則として「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しないことになります。一方で、故意の誤りでなくても取引先の税務調査で指摘されたという情報を得て修正申告を自発的に行った場合には「更正があるべきことを予知してされたもの」と取り扱われる可能性があるということになり、不合理な気はします。
次に、端緒把握説ですが、この説による場合はいつ端緒を把握したのかが不明確になるのではないかと思います。すなわち、調査担当職員が提出された申告書を使用して税務署内において内部調査を行った結果、申告が誤っていそうだという認識を持つに至った場合、その事実を納税者は全く知らないわけですが、その時点以降提出された修正申告書が「更正があるべきことを予知してされたもの」として取り扱われてしまうのは不合理な気がします。
個人的には、調査担当職員が誤っていると考えている項目については、書面で通知し、それが到達以後の修正は、原則として「更正があるべきことを予知してされたもの」と取り扱うというような、いわば”お尋ね通知到着基準”とでも言うべき明確な基準があってもよいのではないかと思います。