前受金は金融商品の時価開示の対象か?
早速ですが、金融商品の時価の開示例を二つ確認します。
上記の開示例ではいずれも「金融商品の時価等に関する事項」に「前受金」が含まれていますが、「前受金」は金融商品の時価として開示する必要があるのかが今回のテーマです。
「前受金」は、なんとなく金融商品に該当しそうですが、結論からすれば「前受金」は金融商品の時価として開示する必要はないと考えられます。
考え方を確認していくと、まず、金融商品会計基準52項(結論の背景)では以下のように定められています。
「・・・(前略)なお、金融資産、金融負債及びデリバティブ取引に係る契約を総称して金融商品ということにするが、金融商品には複数種類の金融資産又は金融負債が組み合わされているもの(複合金融商品)も含まれる。」
つまり、金融商品は、金融資産、金融負債、デリバティブを意味します。そして、前受金が金融商品であるとすれば、金融負債に該当することになると考えられますが、金融負債は金融商品会計基準5項で以下のように定義されています。
「金融負債とは、支払手形、買掛金、借入金及び社債等の金銭債務並びにデリバティブ取引により生じる正味の債務等をいう。」
要約すれば、金融負債は金銭債務とデリバティブから生じる債務を意味します。そうすると、つまるところ前受金は金銭債務か否かが問題となります。
金銭債務とは、金銭の支払を目的とする債務を意味します。典型的には、支払手形、買掛金、借入金等が金銭債務に該当します。
ここで、前受金について考えてみると、前受金は負債ではありますが、前受金を受領している側が負っている債務は、受領した対価に対する商品やサービス等を提供することですので、前受金は金銭債務には該当しないと考えられます。
以上をまとめると、前受金は金銭債務ではないので、そもそも金融商品ではなく、したがって時価開示の対象とはならないということになります。
連結貸借対照表上に前受金が計上している会社を検索すると442社がヒットし、一方で金融商品の注記に「前受金」が含まれている会社は35社がヒットします。ただし、金融商品の注記については、必ずしも時価開示の部分に「前受金」が含まれているわけではなく、他の部分で「前受金」という単語が使用されているものの件数も含まれてていますので、実際に時価開示に「前受金」が含まれている事例は35社よりも少なくなります。
前受金を時価開示に含めている事例から判断すると、本来開示する必要がないものを開示してしまうことになるので注意が必要です。