役員退職慰労金の支給は何故一任決議できるのか?
1.原則的な報酬決議の考え方
会社法上、役員報酬は定款に定めがない場合は株主総会で決議が必要とされています。取締役の場合であれば、会社法361条1項1号で「酬等のうち額が確定しているものについては、その額」を定めなければならないとされています。監査役の場合も同様に「額」を定めることが要求されています(387条1項)。
そこで役員報酬について考えてみると、通常の報酬については、年間の枠という形で決議されていることが多いとしても、上限額が明示された上で株主総会で決議されます。また、役員賞与が株主総会で決議される場合は、個人別の支給額は不明であるとしても支給額そのものが株主総会で決議されます。
2.役員退職慰労金の場合の実務
ところが、役員退職慰労引当金の場合は、「在任中の功労に報いるため、当社所定の基準に従い、相当額の範囲内で退職慰労金を贈呈することといたしたく存じます。なお、その具体的金額、贈呈の時期、方法等は、取締役会に一任願いたいと存じます。」というような議案が株主総会に上程されることがほとんどです(金額が明示された上で、決議がされるのは稀だと思います)。
3.何故一任決議が認められるのか?
上記のとおり、本来は「額」を明示しなくてはならないはずですが、この点について判例は、株主総会の決議をもってしても無条件に取締役会の決議に一任することは認められないとする一方で、通常の報酬のように具体的な上限金額を明示しなくても、以下の3要件を満たす限りにおいては、退職慰労金の具体的な支給決議の決定を取締役会の決議に一任することを認めています(最判昭和39年12月11日民集18巻10号2143頁、最判昭和44年10月28日判時577号92頁、最判昭和48年11月26日判時722号94頁)。
その3要件とは以下のとおりです。
- 当該会社の慣行及び内規によって一定の支給基準が確立されていること
- 当該支給基準が株主にも推知しうべきものであること
- 株主総会の決議が、明示または黙示的に当該支給基準の範囲内において相当な金額を支給すべきものとすること
4.株主は支給額がわからないまま承認することになるのか?
最高裁の判例で認められているため、役員退職慰労金については実務上一任決議がとられているわけですが、そうだとすると、株主は実際にいくら支給されることになるのかわからないまま総会で承認しなければならないのかという点が問題となります。
この点については、実務上、「①退職慰労金規程を制定し、②株主総会の招集通知を発出してから決議が成立するまでの間、同規程を本店に備え置いて株主の閲覧に供した上で(会社法施行規則82条2項参照)、③同規程に基づき相当額の範囲内で退職慰労金を贈呈する旨を株主総会で決議するのが一般的」(「実務家のための役員報酬の手引き」高田剛 著)です。
つまり、支給額がどれくらいになるのか知りたい株主は、内規を閲覧すればよいということになります。
5.株主総会で質問された場合は?
株主の立場からすると、一任決議を求められた場合、株主総会で実際の支給額がいくらくらいになるのかを質問することが考えられます。この場合、取締役は「退職慰労金の算定基準が存在すること、および当該算定基準が退職慰労金の金額を一義的に算出することができるものであることについて、平均的な株主が理解しうる程度の説明が求められる。」(「実務家のための役員報酬の手引き」高田剛 著)とされています。
仮にこのような質問を受けた場合に、取締役がおおよその支給金額がわからないような説明しかしなかった場合には、取締役の説明義務違反を理由に総会決議が取り消される可能性もあるので注意が必要です。
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