国際税務入門(その6)-租税条約
今回は国際税務入門(その6)として租税条約について確認することとします。
租税条約とは国と国との間で課税権の調整等を目的として結ばれた条約等で、日本が外国と締結している租税条約は、①所得に関する条約と②相続に関する条約が存在します。
ただし、②相続に関する条約については現時点において対アメリカのみであるため、租税条約といえば、基本的には所得に関する条約と考えてよいようです。
ちなみに、対アメリカとの租税条約の正式名称は「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」となっています。また、例えば対ドイツとの取り決めの正式名称は、「所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税回避のための日本国とドイツ連邦共和国との間の協定」と「協定」ですが、一般的にはこれらも含めて「租税条約」と呼ばれています(たとえばジェトロのHPでドイツに関する部分をみると「二国間租税条約あり」となっています)。
租税条約の調べ方
租税条約は以下の方法で確認できます。
- 租税条約関係法規集(平成26年版)(書籍)を購入する
- 財務相や外務省のHPで確認する
書籍を購入するのが無難ですが、約1万円しますので、利用頻度が高い方でなければなかなか購入には踏み切れないのではないかと思います。
そのような場合には財務省のHPから平成16年の日米租税条約以降の租税条約については内容を確認することができます。それ以前のもの(たとえば対ドイツ)については、外務省のHPから確認することができます(いずれもPDFでダウンロード可)。
ネット検索だと無料ですが、個人的に残念な点としては、縦書きで使用しにくいという点です。
なお、租税条約とは別に「議定書」には条約本文の解釈に関する事項や、二国間の了解事項が取りまとめられていたりするので、「議定書」の内容にも注意が必要です。また、簡易な改正も「議定書」で行われることがあります。
租税条約の役割および位置づけ
租税条約には、二重課税の排除や課税権の配分などの役割がありますが、実務的には、相手国の所得の受領者に対して、国内法よりも低い税率適用を容認する減税機能が重要となります。
ここで重要なのは、租税条約の適用の恩恵を受けるのは、本来所得の受領者であるという点です。
しかしながら、例えば海外への使用料を支払うような契約を行う場合、いわゆるグロスアップ条項が含まれており、所得の受領者は租税条約が適用されようがされまいが手取金額は影響を受けないような契約になっていることが多くあります。
本来であれば20%源泉(復興税は無視します)、租税条約が適用されれば免税というようなケースにおいて、グロスアップ条項で手取金額が100で確定している場合、支払側は租税条約の適用を受けることができれば実際のキャッシュアウトが100で済むのに対して、租税条約の適用が受けられなければ、125(100+源泉税25)のキャッシュアウトが生じてしまうことになります。
そのため、本来であれば、租税条約のメリット受ける所得の受領者が租税条約の適用を積極的に受けようとするところ、立場が逆転し、日本(支払側)が租税条約の適用を受けるのに必要な書類等を相手方にお願いして準備しなければならないというような矛盾した事態が生じます。
また、租税条約と国内法との関係ですが、租税条約は日本国憲法98条2項において「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」とされていることから法律と同様に取り扱われるものの、法律そのものではないため租税法律主義から、国内法を超えた課税関係を創り出す機能はないとされています。
そのため、租税条約はもっぱら国内法の規定を狭める方向に作用することになります。
租税条約の解釈
租税条約を調べる際に、まず注意する必要があるのは、租税条約で使用される用語と日本の法人税や所得税で使用される用語の定義は必ずしも同じではないという点です。
したがって、租税条約に使用されている用語はその租税条約の規定を確認する必要があります。
ただし、使用されているすべての用語が租税条約で定義されているわけではないので、租税条約で定義されていない用語については、日本の所得税や法人税での定義を借用して解釈することになります。
また、租税条約に関連する日本の法律として「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律」というものも存在し、この法律も考慮する必要があります。
租税条約の適用を受けるための手続き
租税条約は、租税条約の対象となる取引であっても原則としては自動的に適用されるわけではなく、適用を受けるためには手続きが必要となります。
具体的には、所得の受領者が「租税条約の届出書」を支払日の前日までに、支払者(源泉徴収義務者)を経由して支払者(源泉徴収義務者)の管轄税務署長に提出する必要があります。
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