クラウドで提供するソフトウェアの制作費は自社利用ソフトか販売目的ソフトか?
というのは、会計的には、最終表示は「ソフトウェア」で償却等も販売ソフトと同じよう処理すれば、会計方針の注記が少し増える程度の違いしかないので、実務指針の規定から説明しやすいロジックを採用すればよいわけです。
しかしながら、私はクラウド型のソフトであっても販売目的ソフトであると言い張ったほうがよいのではないかと思います。なぜなら税務上、自社利用ソフトとして取り扱われることのデメリットが大きいと考えるからです。
会計と税務の自社利用ソフトの考え方が異なる典型的なものは、資産計上の要件です。
<会計の考え方>
将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる場合は無形固定資産に計上する(実務指針第11項)
<税務の考え方>
将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかな場合のみ、取得原価に算入しないことができる(法人税法基本通達7-3-15の3(2))
大まかに言えば、会計は費用計上が前提であるのに対して、税務上は資産計上が前提となっているという大きな違いがあります。
クラウド型のソフトウェアを自社利用ソフトと考えるということは、会計上は販売目的のソフトと同様に資産計上していたとしても税務上は制作開始時点から資産計上する必要があると考えられます。
法人税法基本通達7-3-15の3(2)では、「次に掲げるような費用の額は、ソフトウエアの取得価額に算入しないことができる。」として「(2)研究開発費の額(自社利用のソフトウエアについては、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限る。)」としています。
つまり、研究開発費の額については、資産計上しないことができるけれども自社利用ソフトについては、将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限るという制約がついています。一方で、販売目的のソフトについては、以下の点から会計上の研究開発費を税務上も研究開発費として取り扱ってよいものと考えられます。
①法人税の取扱い上、「研究開発費」という用語の意義について定めは置かれていない(法人税法上は「試験研究費」という用語はある)ので、一般に公正妥当な会計基準でいうところの「研究開発費」と同義と考えてよいものとかんがえられる。
②法人税法基本通達7-3-15の3(2)では、販売目的ソフトについては何ら言及されていないこと。
③税務上の減価償却資産の取得原価は、もともと適正な原価計算に基づき算定されていればよいこと(法人税法施行令第54条第1項第2号)。
クラウドで提供するソフトについては、実態がいくら販売目的ソフトに近く、会計処理もそれに近い処理をしているとしても、「自社利用のソフトウェア」である以上、税務上は資産計上の開始時期が市場販売目的のソフトウェアとは異なると考えるのが無難です。