タイムカードによる労働時間把握
タイムカードによる労働時間の管理について、「残業の自己申告制(その1)」で「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日基発第339号)の内容および京電工事件の判例から、タイムカードを使用している場合その打刻時間に基づき時間外労働時間が算出されてしまう可能性があるということを書きました。
これはこれで可能性としてはその通りなのですが、ビジネスガイド8月号に安西法律事務所の弁護士である岩本充史氏が「タイムカードによる労働時間の管理」としてQ&Aを書いていた内容が面白かったので紹介します。
このQ&Aの質問は、現場の上長が時間外労働命令簿により時間外労働時間を管理している一方で、会社の入退場時にタイムカードに打刻させている場合、タイムカードにより時間外労働時間を算出しなければならないかという質問でした。
この質問に対する回答として、「タイムカードのみでの正確な労働時間管理は困難であり、裁判例においても、タイムカードの利用目的によってはその打刻時間をもって労働時間とは判断されていないケースもあります。タイムカードを入退場管理の目的で利用するのであれば、その旨を明らかにすることで、タイムカードの打刻時間をもって労働時間とただちに認定される可能性は低くなるでしょう」というものでした。
ここまでは、ある意味標準的なQ&Aですが、タイムカード等を使用しても正確な労働時間の把握が困難だとする根拠が興味深いものでした。
同氏は、タイムカード等を使用して正確な労働時間の把握が困難な根拠の一つに政府の答弁を挙げています。
これは平成15年にミスター年金こと長妻昭氏の「国のタイムカード導入及び賃金不払い残業に関する質問」に対する答弁でした。この答弁書の中で、以下のように述べられています。
「厚生労働省における職員の勤務時間管理については、国の機関として国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)、人事院規則等に基づき勤務時間報告書等を適切に管理することにより特段の支障なく行っているところであり、また、タイムカードのみでは職員の正確な勤務時間が把握できないことから、勤務時間管理の手法としてタイムカードの導入は必要でないと考える。
このため、同省においては、庁舎管理の観点から、中央合同庁舎第五号館の地下一階に各室ごとのかぎの受渡しの際にタイムカードに時刻を打刻するタイムレコーダ機を二台設置しているが、職員の勤務時間管理のために用いてはいない。
なお、同省では、企業における労働時間の適正な把握について、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」(平成十三年四月六日付け基発第三百三十九号厚生労働省労働基準局長通知)により、使用者が始業・終業時刻を確認し記録する原則的な方法として、タイムカード等を基礎として行う方法のほか、使用者自らが現認する方法を示しているところである。」
つまり、国だってタイムカードで労働時間を把握することが困難な場合があることを認めているじゃないかということで、これは理由づけとしてはなかなか強力だと思います。
ただし、上記の答弁でもタイムカードの利用目的については「庁舎管理の観点」とされており、利用目的が労働時間の把握以外にあることを明確にしておくほうがよいようです。
同氏によれば、「例えば、遅刻、欠勤、早退等を把握する目的で利用していたのであれば、タイムカードの打刻時間をもって労働時間と直ちに認定される可能性は低くなるものと考えられる」とされています。
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