「為替の誤解」(上野康成 著)-No1エコノミストらしいので・・・
No1エコノミスト?の上野泰也氏が書いた”「為替」の誤解”という本が気になって手に取りました。
まず近年円高がすすんでいる原因としては、リスクを回避を目的として安全な通貨であるドル、円、スイスフランにシフトしているのが最大の原因としています。さらに、低迷している経済と深刻な財政事情をかかえる日本円が変われるのかについては、外人から見れば日本は意外に安定しているようにみえることに加え、経済状態が低迷していることからしばらくは金利の上昇も可能性が低く、国債価格が大きく下落する可能性も低いためと分析しています。
たしかに財政事情が深刻と言われながらも、その状況を一番よく知っているはずの日本国民が国債を消化し続けていることを外人がみれば、きっと日本は大丈夫なんだと考えても不思議ではないと思います。単に欧米人のように金融というか運用についての教育がなされていないだけとは、想像もできないことなんでしょう。
ただし、筆者は円はあくまで一時的な避難場所として利用されているだけで、欧州の債務危機が解消した場合にはGDPの200%を大きく超える日本の財政に海外投資家の関心がシフトし、日本国債を見る目が大きく変わることになるだろうとされています。
次に基軸通貨としての米ドルについては、今後も基軸通貨であり続けるとしています。理由は、他に代替通貨がないからということです。ユーロは崩壊するのではないかといわれているし、人民元は管理変動相場の域をでないので、他に基軸通貨になりうる通貨はないとしています。
最近米国もデフレ傾向が見られるようになったという話を聞きますが、この点についても、米国が日本型デフレに陥ることはないと論じています。理由としては、二つのことが挙げられています。一つ目は、出生率は高く、移民も受け入れているので人口が増加していることです。二つ目は、新陳代謝がきわめて活発な供給構造・産業秩序が保たれているためとされています。これは、コダックのような、かつての名門企業が倒産する一方でベンチャー企業は相変わらず活況であるということを挙げています。
また、米国の金融市場は、世界の金融市場の中心なのでNYダウを観察することによって、マーケット全般のコンディションをかなり読むことができるとしています。つまりNYダウが堅調に推移しているといことは、マーケットがリスクを取りにいっているということであり、この場合、日本株や新興国の株が買われ、一方で逃避通貨である米ドルや円は売られやすくなるとしています。逆に、米国の株価が軟調に推移している場合は、マーケットがリスク回避に向かっているということであり、逃避通貨は買われやすくなるとしています。
そして、筆者はこの方向を判断する上でNYダウの変動幅が200ドル以上の日数を用いて判断しているということが述べられていました。例えば、ある月に200ドル以上の上げ幅を記録した日が4日、200ドル以上の下げ幅を記録した日が8日であれば差引4日の負け越しなので、市場がリスクを回避しにいっていると判断するそうです。ちなみに200ドル超の変動を記録した日がゼロの場合は市場が安定しているため今後リスクを取りに行く可能性が高いと判断するそうです。一つの参考にはなりそうな方法です。
最後に欧州債務危機については、「欧州の流儀」へのこだわりから意思決定に時間がかかり問題が長引くとしています。また、ドイツ人には欧州人としての意識が不足していると論じています。ドイツが、経済の実力に比してユーロ安の恩恵を受けていることは確かだと思いますが、個人的には結構がんばって負担してきたように思いますので欧州人としての意識が不足しているというのは言い過ぎではないかと感じます。
オバマ大統領継続の米国と今後の総選挙によって政権交代がほぼ確実の日本、指導者交代の中国、安定しない欧州と何がどうなっていくのでしょう・・・
日々成長