複数事業主制度の退職給付注記-退職給付適用指針の改正
「退職給付に関する会計基準の適用指針」(会計基準適用指針第25号)の改正が平成27年3月26日に公表されています。
平成27年3月期の決算短信の公表期限が経過し、会計方針の変更の注記の事例をみると、当該適用指針の日付を最終公表日の「平成27年3月26日」としているケース、「平成24年5月17日公表分」としているケース、「平成24年5月17日」のままのケースいずれも存在します。
上記で問題となった平成27年3月26日の適用指針の内容について確認します。
適用指針の改正は、複数事業主制度を採用している場合の注記に関するものですので、複数事業主制度が関係ない会社は適用指針の改正による影響は特にありません。
複数事業主制度を採用している場合の注記の概要
まず、前提として複数事業主制度を採用している場合の会計処理及び開示について確認すると、退職給付会計基準33項では以下のように定められています。
- 合理的な基準により自社の負担に属する年金資産等の計算をした上で、確定給付制度の会計処理及び開示を行う。
- 自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないときには、確定拠出制度に準じた会計処理及び開示を行う。
上記1では従来以下のような開示が行われていました。
(㈱ACCESS 2015年1月期)
注記の改正点
適用指針の改正により、上記で「年金財政上の給付債務の額」として表示されている項目が「年金財政計算上の数理債務と最低責任準備金の額の合計額」という表示に変更されます。
適用指針の規定を確認しておくと、66項において従来「年金制度全体の直近の積立状況等(年金資産の額、年金財政
計算上の給付債務の額及びその差引額)」とされていた部分が「年金制度全体の直近の積立状況等(年金資産の額、年金財政計算上の数理債務の額と最低責任準備金の額との合計額及びその差引額)」に変更されています。
なお、当該注記の金額を計算するには、年金財政上の数理債務の額は、厚生年金基金及び確定企業給付年金の貸借対照表には表示されず欄外に注記されているため、厚生年金基金及び確定企業給付年金の貸借対照表の欄外に注記されている「数理債務」の額と貸借対照表に表示されている「最低責任準備金」(負債)の額に基づき注記の額を計算する必要があります。
なお、注記対象が確定給付企業年金のみである場合には、厚生年金基金の代行部分がないため、最低責任準備金の額が存在せず、年金財政計算上の数理債務の額のみとなるため、注記に用いる名称を「年金財政計算上の数理債務の額」とすることが考えられるとされています(適用指針126-2)。
「表示方法の変更」の記載
適用指針129-2で「なお、平成 27 年改正適用指針の適用については、表示方法の変更として取り扱うため、企業会計基準第 24 号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第 14 項の定めに従って、表示する過去の期間における本適用指針第 65 項の注記についても新たな表示方法を適用することとなる。」とされていますので、複数事業主制度の注記を行っている場合、上記の改正により、前期分も同様の表示に組替える必要があります。
したがって、「表示方法の変更」を記載する必要があります。
適用指針の改正理由
上記のように適用指針が改正されたのは、厚生年金基金および確定給付企業年金の貸借対照表の表示方法が変更されたことによります。
変更前は、「数理債務」(負債)及び「未償却過去勤務債務残高」(資産)という項目が貸借対照表に表示されていました。
これが改正によって、「数理債務」(負債)から「未償却過去勤務債務残高」(資産)を控除した金額が、厚生年金基金の場合は「責任準備金(プラスアルファ部分)」(負債)として、確定企業年金の場合は「責任準備金」(負債)として表示されることとなりました。
従来、「数理債務」(負債)および「未償却過去勤務債務残高」(資産)として表示されていた項目は、原則として貸借対照表の欄外に注記されることとなっています。
また、厚生年金基金の場合、代行部分に該当する債務は「最低責任準備金」という名称に変更されたため、「責任準備金(プラスアルファ部分)」と「最低責任準備金」の合計が「責任準備金」として表示されることとなっています。
上記の関係を計算式で示すと以下のようになります。
<厚生年金基金の場合>
・「責任準備金(プラスアルファ部分)」(負債)=「数理債務」(欄外注記)-「未償却過去勤務債務残高」(欄外注記)
・「責任準備金」(負債)=「責任準備金(プラスアルファ部分)」(負債)+「最低責任準備金」(負債)
<確定給付企業年金の場合>
・「責任準備金」(負債)=「数理債務」(欄外注記)-「未償却過去勤務債務残高」(欄外注記)
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