業績連動給与-損金算入要件を充足しないと考えられる有報記載事例とは?
税務通信2478号の税務の動向に『有報で開示すべき「客観的な算定方法の内容」の”程度”とは』という記事が掲載されていました。
平成29年度税制改正によって、業績連動給与の算定指標の範囲が拡大され、従来の「利益の状況を示す指標」に加え、「株式の市場価格の状況を示す指標」及び「売上高の状況を示す指標」も認められることとなりました。また、一定の株式・新株予約権による給与も業績連動給与の対象とされたことによって、損金算入が可能となる範囲が拡大しています。
そして、この業績連動給与を損金算入する要件の1つに、「有価証券報告書等で一定事項を開示すること」があります(法法34①三イ(3))。
具体的に記載すべき事項については、法人税基本通達9-2-19で以下のように記載されています。
(算定方法の内容の開示)
9-2-19 法第34条第1項第3号イ(3)《損金の額に算入される利益連動給与》の客観的な算定方法の内容の開示とは、業務執行役員の全てについて、当該業務執行役員ごとに次に掲げる事項を開示することをいうのであるから、留意する。(平19年課法2-3「二十二」により追加、平23年課法2-17「十八」、平28年課法2-11「六」により改正)
(1) その利益連動給与の算定の基礎となる利益の状況を示す指標
(2) 支給の限度としている確定額
(3) 客観的な算定方法の内容
(注) 算定方法の内容の開示に当たっては、個々の業務執行役員ごとに算定方法の内容が明らかになるものであれば、同様の算定方法を採る利益連動給与について包括的に開示することとしていても差し支えない。
上記の(3)の「客観的な算定方法の内容」について、税務通信の記事では「単に、算定方法を開示すればよいわけではなく、あくまで“客観的”な算定方法の開示が求められ、その算定方法により支給額や交付株式数を算定できることが必要だ」とされています。
しかしながら、「実際の導入企業の有価証券報告書を確認すると、その開示内容が、損金算入要件を充足するか否かという点で不十分といえるものも見受けられる」とのことです。
「客観的な算定方法の内容」の開示の「程度」については、法人税法や法人税基本通達で示されておらず、改正前の利益連動給与の導入企業も少なく、参考事例も少ないものの、「開示した算定方式に、その後確定する数値等を当てはめることで、支給額等を算定できる”程度”までの開示は必要となる」と記載されています。
このような観点から、「客観的な算定方法の内容」の開示が損金算入要件を充足していない事例として以下の事例が取り上げられていました。税務通信の記事では社名は記載されていませんので、以下は有報の記載から推測した会社を前提として業種等を記載しています。
1.A社(医薬品等の小売業、東一、平成29年3月期有報)
《算定方法》
交付株式数は以下の算定式により、2段階で算定されます。
(ⅰ) 基準交付株式数(各取締役選任時に決定)
=各対象取締役の職位、職責により決定される金額÷当社普通株式の時価相当額
(ⅱ) 交付株式数(評価期間終了後に決定)
=基準交付株式数×当社会社業績等の目標数値の達成率等に基づく支給割合
但し、(ⅰ)の各取締役に決定される金額、(ⅱ)の支給割合の決定方法等の詳細は、別途、当社取締役会により決定されます。なお、当該取締役会の決定の際は監査等委員である取締役の過半数の適正書面を得ます。
上記の記載については、「“支給割合”の決定方法等の詳細が開示されていない(別途、取締役会で決定)。結果、交付株式数の算定ができないため、「客観的な算定方法の内容」の開示に係る損金算入要件を充足していなものと考えられる」とされています。
2.B社(航空運輸、東一、平成29年3月期有報)
(個人別交付株式数の算定方法)
個人別交付株式数は、基準交付株式数に、業績評価期間における当社の業績等の目標に対する達成度合い等に基づく業績評価係数を乗じることにより算定されます。
[ 個人別交付株式数 = 基準交付株式数 × 業績評価係数 ]
なお、当該算定方法によって算定された個人別交付株式数の総数が、上限交付株式数を超えるおそれがある場合には、上限交付株式数を超えない範囲で、各対象取締役に対して交付する株式数を案分比例等の合理的な方法により減少させます。
基準交付株式数は、取締役の役位ごとに定められる基準額を業績評価期間の開始日前1か月間の東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値の平均値(1年未満の端数は切り上げ)で除した数といたします。また、業績評価係数は、業績評価期間における中期経営計画で重視する経営指標等の業績の目標に対する達成度合い等の結果に基づき算定されます。
上記の事例では、「個人別交付株式数 = 基準交付株式数 × 業績評価係数」の「業績評価係数」等が開示されていないことにより、「個人別交付株式数の算定ができないため、「客観的な算定方法の内容」の開示に係る損金算入要件を充足していないものと考えられる」と述べられています。
3.C社(電気機器、東一、平成29年3月期)
<業績連動型株式報酬>
・業務執行を担う取締役を支給対象とし、株主と利益を共有し、中長期的な業績向上に資する、業績連動型の株式報酬を支給する。
・あらかじめ役位に応じた基準株式数、業績判定期間(3年間)、連結売上収益と連結営業利益を指標とする中長期業績目標とその業績達成度合いに応じた係数幅を設定し、基準株式数に業績達成度合いに応じた係数を乗じて、年度毎の株式数を計算の上、業績判定期間の終了をもって、その合計株式数を割り当てる。
上記については、「業績連動型株式報酬の算定方法は開示されているが、”係数”等が開示されていない。結果、業績連動型株式報酬の算定ができないため、「客観的な算定方法の内容」の開示に係る損金算入要件を充足していないものと考えられる」と述べられています。
要件を充足していたとしても、実際に損金算入が認められるのはしばらく先のことになると思いますが、上記のような記載を行った会社が損金算入を意図しており、仮に記載が不十分であったとした場合、有報の記載を来年度以降に修正すれば損金算入要件を充足することとなるのかが問題となります。
法人税法34条1項3号イ(平成29年10月1日施行)(3)では損金算入要件を充足する客観的な指標の要件の1つとして以下のように規定しています。
(3)その内容が、(2)の政令で定める適正な手続の終了の日以後遅滞なく、有価証券報告書に記載されていることその他財務省令で定める方法により開示されていること。
改正前は「(3)その内容が、(2)の決定又は手続の終了の日以後遅滞なく、有価証券報告書に記載されていることその他財務省令で定める方法により開示されていること。」となっています。
仮に現在の記載が不十分だとすれば、素直に読めば、遅滞なく開示されていることにはならず要件を満たさないようにも思えますが、しっかりした税務部門を有していると思われる大企業が行っている開示なので、開示を行った企業としては損金算入に問題が無いという判断をしたものと推測されます。
いずれも、税務通信の見解としては損金算入要件を充足していないものと「考えられる」というだけですが、来期以降、これらの会社の記載がどうなるのかは注目に値します。