退職者を被保険者とする支払保険料を損金算入可とした裁決
T&A master No.738のスコープに”退職者を被保険者とする支払保険料も損金算入可”という記事が掲載されていました。
この事案は、「法人である納税者(請求人)の従業員(退職者を含む)を被保険者(契約者および受取人は納税者)とするがん保険の支払保険料のうち、退職した従業員に係る支払保険料を損金不算入とした課税処分を国税不服審判所が取り消した(平成29年12月12日裁決・東裁(法)平29代63号)」というものです。
税務上の取扱いはともかくとして、退職した従業員を被保険者とする保険契約を継続することが可能なのかというのは疑問ではありますが、100%損金算入が認められていた頃に契約したがん保険を継続できるなら継続したいというケースは十分考えられます。
この事案は、「社内規程に基づく従業員に対する福利厚生の一環として、生命保険会社との間で納税者を契約者および受取人、従業員(退職者を含む)を被保険者とする終身がん保険契約を締結した。なお、がん保険契約では、保険料は掛け捨てで満期返戻金はないが、保険契約の解約の場合には解約返戻金が納税者に払い戻されるもの」とされていたとのことです。
課税当局は、退職した従業員を被保険者とするがん保険に係る支払保険料は納税者の業務との関連性が認められないとしたうえで、退職した従業員を被保険者とするがん保険契約に係る支払保険料を損金不算入とする課税処分を行ったとのことです。
会社は、当該がん保険契約は社内規程に基づく退職者を含む従業員に対する福利厚生を目的としたものであり、退職者支払保険料も損金に算入されるなどと主張したとされています。これだけ読むと、退職者分を福利厚生というのは難しそうですが、「従業員の採用時に、退職後5年間は本件がん規程記載の給付金等を支給することを書面で説明し、終身がん保険の契約時には本件がん規程を配賦して保険契約書に押印してもらうことにより、従業員(被保険者)に周知し、退職予定者に対する案内文にも退職後も本件がん規程によりがん診断給付金を支給すると明記している」という状況にあったとのことです。
つまり社内規程によって、退職後も給付対象となる期間があることが明らかとされていたという状況にあり、審判所はも、この保険契約は、従業員が会社を退職した後も5年間については退職者ががんに罹患またはがんにより死亡した場合に受取保険金を原資として退職者に見舞金または弔慰金を支払うことを約したものであると認定し、退職者分の支払保険料が納税者の業務と関連性を有し、業務の遂行上必要と認められるから、損金に算入できるという判断を下したとのことです。
無条件に退職者分の保険料について損金算入が認められるわけではないということになりそうですが、一方で、人材確保の福利厚生として使える手段の一つとして記憶しておく価値はあるかもしれません。