「一般被保険者」の定義解釈を誤り税理士に損害賠償請求
税務通信3535号に「税理士損害賠償事故例と予防対策ケース・スタディ」として「所得拡大促進税制 適用失念ケース」が取り上げられていました。
この記事で取り上げられていた内容は、平成29年4月に「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(以下「特別控除」という)の適用を検討していた際、適用要件を確認する上で必要な平均給与等支給額を算定するにあたって,一般被保険者の定義を誤って認識していたことに気付」き、他の関与先での誤りがないか確認したところ、平成20年8月からの関与先の平成28年12月期の申告において特別控除が可能であったところ、特別控除を失念してしまったというものです。
具体的には、当該税理士は「雇用保険に加入していない従業員については一般被保険者には該当しないとして特別控除適用の可否を判定していたため、依頼者においては適用要件を満たしていないと判断し、特別控除の適用をしなかった」とされています。
「過大納付法人税等について損害賠償請求を受けている事例」とされているので、まだ確定はしていないようです。また、一般被保険者に該当しつつも雇用保険に加入していない者がいるという事実を当該税理士が認識していたのか(あるいは、容易に把握できる状況であったのか)についてはこの記事では明らかではありませんが、これで税理士の責任が問われるとすると、所得拡大促進税制(平成30年度税制改正後の賃上げ・投資促進税制)は、税理士にとっては結構ハイリスクな制度であると認識する必要がありそうです。
雇用保険の一般被保険者に該当する者がいるが雇用保険に未加入の場合の取り扱いについては、「所得拡大促進税制の手引き 改訂版(税理士 安井和彦 著)」では以下のように述べられています。
継続雇用者給与等支給額の意義を定めた措置法施行令27条の12の5第14項は、一般被保険者を「雇用保険法第60条の2第1項第1号に規定する一般被保険者」と定義しています。雇用保険法60条の2第1項第1号は「一般被保険者(被保険者のうち高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者以外の者をいう)」と規定しています。更に、雇用保険法4条1項では,被保険者を「適用事業に雇用される労働者であって、第6条各号に掲げる者以外のものをいう。」と定義しています。そして、事業主はその被保険者に関する届出をする義務を負っています(同法7条)。つまり、措置法施行令27条の12の5第14項は、雇用保険の加入手続や保険料納付の有無にかかわらず、単に雇用保険法上の一般被保険者の意義を引用しているにすぎません。
したがって,事業主が雇用保険の加入手続を行っていない場合であっても、本来一般被保険者に該当するものであれば、税法上は一般被保険者として取扱われるべきものと考えられます。
要は、本来雇用保険の一般被保険者として雇用保険に加入すべき者であれば、税法上の取り扱いとしては実際に加入しているかどうかは関係ないとされています。
手元にあった参考文献で確認したところ上記のような記載がすぐに見つかったので、気になって調べれば他にも同様の記述が比較的容易に見つかるのではないかと思われますが、そもそも雇用保険に加入しなければならないにも関わらず加入していない一般被保険者がいないかどうかを確認することまで求められるとすると、税理士に酷な気はします。とはいえ、上記のようなケースがあるということから、最低限、そのような人がいないかどうかについては質問しておくことが必須といえそうです。
直感的には不合理な気もしますが、雇用保険に加入させるさせないを調整することで税額控除を受けられるようにするという操作を防止するためには、このような取り扱いとせざるを得ないということなのかもしれません。