上場企業による不正を発生原因や類型の調査結果
T&A master No.788の特別解説に「我が国の上場企業における不正」という記事が掲載されていました。
この記事では、同誌が2014年4月1日から2019年3月31日までの5年間に、不適切な会計処理や不適切な行為等について第三者委員会調査報告書を公表した136社を調査した結果がまとめられていました。なお、無資格者による自動車の完成検査など会計処理に直接関係しない事案は調査対象から除外されているとのことです。
件数の推移をみると、概ね年間30件ペースで調査報告書が公表されています。ちなみに2019年は3か月で11社となっていますが、2014年4月~12月の9か月で13社となっていることから、時期的なものなのではないかと推測されます。
調査報告書を公表した企業を市場別にみると、東証1部が66件で最多となっていますが、上場企業数も2番目に多いジャスダックの3倍程度となっていることから、ある意味当然の結果といえます。各市場の上場企業数に対する割合で考えると東証1部は3.1%に対して、ジャスダックは4.3%(31件)、マザーズは4.6%(13件)と新興市場の方が高い割合となっています。これもイメージどおりの結果ではないかと思います。
不正を起こした当事者という切り口でみると、最も多いのは連結子会社で56社、これに親会社が52社と続きます。これで全体の約8割を占めますが、残りは元役員・従業員16件、社長・会社の代表者が10件、その他2件となっています。
一般的には不正というと、横領や着服がイメージされるのではないかという気がしますが、不正の形態別にみると、粉飾決算が73件で群を抜いて多く、資金や会社財産の横領・着服等は22件で2番目に多いという結果になっています。これとほぼ同数で実態のない取引への関与、社外への不適切な支払等が21件となっています。
不正の具体的な内容は、形態別で粉飾決算が最多となっていることからある程度推測できると思いますが、架空売上の計上・売上の過大計上が27件で最も多く、これに会社資産や資金の着服・横領22件、架空在庫の計上・在庫の水増し14件、売上の前倒し計上14件、架空発注・裏金作り14件、原価の付け替え10件、循環取引への関与9件などとなっています。
なんだかんだ言っても売上で粉飾をするというのが多いというのが現実といえそうです。
最後に不正が発覚した契機としては、会計監査人の指摘と外部からの指摘が26社同数で最多となっています。税務調査が12社、取引先からの連絡・通報は10社で別項目として集計されているので、「外部からの指摘」の「外部」はいったいどのようなケースなのかが気になりますが、雑誌の記事はこれに含まれると思われます。
この他社内調査が24社と2番目に多くなっていますが、これには、「自ら異変に気づいた自発的な社内調査のほかに、内部・外部から内密の情報提供を受けた上での社に調査も相当数、含まれていると思われる」とされています。
過去5年程度、毎年30件程度の報告書が公表されているという傾向からすると、今後も同じくらいの問題が発生するものと予想されます。不正の手法は色々あると考えられますが、大きな括りでいえば、架空売上の計上・売上の過大計上や会社資産や資金の着服・横領など、特に目新しいものではないものが多いので、同業で問題が行ったような場合には、それを踏まえて自社の統制を見直すというようなことが重要だと考えられます。