会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方
繰延税金資産の回収可能性にしても、固定資産の減損にしても決算においては会計上の見積り不可避となっていますが、新型コロナ感染症の影響をどのように会計上の見積りに織り込めばよいのかについてはかなり難しい問題だと思われます。
このような状況において、”「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方について明らかにして欲しい」との声を応えてASBJは9日に委員会を開催、新型ロコなウイス留守感染症の影響について審議し”、実務の助けとなるよう議事概要を公表しました(経営財務3454号)。
公表された「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」では、「新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため、会計上の見積もりを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難となっているものと考えられる。」としつつも、「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の過程を置き最善の見積もりを行う必要があるものと考えられるとされています。
一定の過程を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましいとしていますが、一方で、新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる前提となる前例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが考えられるとし、この場合、影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになるとしています。
そして、企業が置いた仮定が明らかに不合理である場合を除き、結果的に実際の結果との間に乖離が生じても誤謬には当たらないと考えられるとされています。
また、一定の仮定は企業間で異なることも想定されるとされ、同一条件下の見積もりについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられるとされていますが、「このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報として開示が求められるものと考えられる」とされています。
日本公認会計士協会が公表してる「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意上の留意点(その2)」では「明らかに不合理である場合」について「見積額の選択が、過度に楽観的又は過度に悲観的な傾向を示していること」を検討の指標としています。
見積もらなければならない事項は各企業によって異なるので、前提条件が一律に決まるわけではないものの、例えば現在営業を停止しているような小売業が5月6日に緊急事態宣言が解除され、営業を再開できると見積もった場合、政府が専門家の意見を踏まえて必要と判断した期間である以上、明らかに不合理とはいえないのではないかが考えられます。とはいえ、個人的には直近の状況を踏まえると緊急事態宣言が延長されてても全く不思議ではないと感じているので、仮に非常事態宣言が延長された場合にどうなるのかが問題となります。
この点、通常であれば次の期限で解除されるとすることを慎重に検討しなければならないということであれこれ監査人から言われるのではないかと考えられますが、監査人も何らかの依拠しやすい基準が必要であると考えられるので、政府が必要だと考えて出した期間を明らかに不合理とする監査人はほとんどいないのではないかと推測されます。
いずれにしてもASBJが、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられるとしていることから、3月決算会社では追加情報の記載が増加するものと考えられます。