取締役会規程で事前に議題通知が定められている場合に、事前に通知されていない事項を審議対象とできるか?
取締役会規程が作成されている場合、当該規程において取締役会の招集にあたっては、議案を明らかにして取締役会開催の○日前(○週間前)までに取締役・監査役に通知することと規定されていることがあります。
このような場合、事前に通知された議題以外の事項について、取締役会で審議することが可能なのかが問題となります。
まず前提知識として会社法における取締役会の招集に関係する規定について確認しておきます。
1.会社法における取締役会の招集に関する規定等
(1)招集通知
取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間前までに、各取締役に対してその通知を発しなければならないとされています(会社法368条1項)。なお、監査役設置会社においては各監査役に対しても通知が必要となります(同条同項)。
(2)招集期間
(1)のとおり原則としては「取締役会の日の1週間前まで」に通知を発する必要があるとされていますが、定款で招集期間を短縮することは可能とされています(会社法368条1項)。実務上は3日前、あるいは5日前としているケースが多いようです。
なお、取締役会規程(規則)において、招集期間の短縮について記載されているケースもありますが、会社法上、招集期間の短縮は定款で定めることができるとされているため、取締役会規程(規則)でのみ短縮を行うことはできないと考えられます。また、定款と取締役会規程(規則)で不整合が生じている場合は定款の定めが優先されると考えられます。
(3)通知手段
会社法上、招集通知の通知手段については、特に定めはありませんので、書面、電子メールはもちろん、口頭で行うことも会社法上は問題ありません。個人的には後で履歴が確認しやすいという点から、電子メールが使い勝手がよいと考えています。
(4)通知事項
株主総会の招集通知に関しては、会社法299条4項において298条1項各号に定める事項(日時場所、目的事項などを記載することが求められている一方で、取締役会の招集に関しては同様の定めがないことから、通知事項についても会社法上は特に定めはありません。
したがって、条文上は会議の目的事項についても事前に通知する必要はなく、仮に会議の目的事項があっても、記載されていない議題を当日取り上げることは可能とされています。これは、取締役は、取締役会に常に出席する義務があり(権利ではない)、かつ、取締役会は業務執行の決定等をするので、迅速な意思決定が必要な場合には事前の予告がなくても議題に対応すべき職責があるためです。(「取締役・執行役ハンドブック[第2版]中村直人 編著 商事法務P74)
2.取締役会規程(規則)で、会議の目的事項を通知すべきとされている場合
1.(4)に記載のとおり、会社法上は、そもそも会議の目的事項の通知が求められていないため、仮に会議の目的事項が通知されていたとしても、事前の通知に記載されていない議題を当日取り上げることは可能とされていますが、取締役会規程(規則)において、事前に会議の目的事項を通知すべきと規定されている場合にはどうなるのかが問題となります。
この点、定款または取締役会規程で、招集通知には会議の目的事項を記載すべしと定めている場合も、同様の取扱いとなります(名古屋高判平成12・1・19金判1087号18頁)。これは「会議の目的事項を記載する趣旨は、各取締役に事前の準備を促すものであるが、招集権者に議題を限定する権限まで委ねた者とはいえない」(「取締役・執行役ハンドブック[第2版]中村直人 編著 商事法務P74)ためで、「記載されていない議題を取り上げるかどうかは、会議のルールの原則に立ち返って、取締役会の多数決で決めればよい」とされています。また、結論を出すには情報が足りないというような場合には、継続審議とすればよいとされています。
なお、定款または取締役会規程(規則)において、取締役会の目的事項(議題)を特定して、取締役会の招集通知を発出しなければならない旨を定めている場合に、招集通知に目的事項がまったく記載されていないような場合には、適法な招集通知とは認められません(会社法コンメンタール8 森本滋 商事法務 P276)。
また、仮に欠席取締役がいる場合も同様に考えて良いのかが問題となりますが、「取締役は、取締役会に常に出席する義務があ」るとされていること、および「記載されていない議題を取り上げるかどうかは、会議のルールの原則に立ち返って、取締役会の多数決で決めればよい」とされていることからすると、基本的に結論に変化はないと考えられます。
ただし、特定の取締役や株主グループを不利に扱う目的で意図的に特定の決議事項を記載しないようなケースにおいては、違法な決議となる可能性があります。そのような意図的なものでなかった場合であっても、あとで問題になることを懸念するのであれば、欠席した取締役に後日追認してもらうということが考えられます。