過年度財務諸表修正で課徴金納付も虚偽記載に該当せず?
T&A master No.882に「売上の過大計上で課徴金納付も有価証券報告書の虚偽記載に該当せず」という記事が掲載されていました。
久々に名前を目にしたエナリスに関する訴訟に関するものでした。当時マザーズに上場したいたエナリス社は、会計処理に疑義が生じたため第三者委員会を設置し、調査を行った結果、最終的に過年度の有価証券報告書及び四半期報告書を訂正し、その後、東証から上場契約違約金2400万円の支払を求められた他、証券取引等監視委員会からは売上の過大計上等による虚偽記載によって約2億5000万円の課徴金納付命令が出され、納付しました。
これに対して株主は、虚偽記載によって株価が下がったとして損害賠償を求めて裁判が行われていましたが、東京地裁は、有価証券報告書等の記載が虚偽の記載に当たると認めることはできないと判断し、株主の請求を棄却した(2020年7月6日判決)とのことです。
当時、結構話題となった事案ではありますが、裁判所の判断は、各取引の会計処理は一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものであったというものです。
なお、第三者委員会の調査結果は極めて保守的な見解を示したものと解され、当該調査結果をもって判断が左右されるものではないと判断されたとのことです。
また、「裁判所は、被告会社が有価証券報告書等の訂正を行うとともに調査報告書の内容の公表を行っていることや、課徴金納付命令の発令の勧告における虚偽の記載の事実を認め、課徴金の納付に応じていることに対しては、被告会社が東京証券取引所から特設注意市場銘柄の指定を受けるなどしていたことも考慮すれば、早期に問題を収束させるために経営判断としてこれらを受入れたとする被告会社の主張が一概に不合理とはいうことができないとした」とのことです。
おそらく一般的な理解としては虚偽記載であったという認識であったと思いますし、同社のサイトには”「誓いの日」の制定について”として以下の様な記載がされています。
【制定の背景】
当社は、2014年12月に不適切な会計処理が発覚したことにより、当社株式は、2015年1月29日付けにて株式会社東京証券取引所より「特設注意市場銘柄」に指定されました。その後、社内の内部管理体制の見直し・強化等の再発防止策に取り組んだ結果、2016年9月24日付けにて、「特設注意市場銘柄」指定を解除されました。
こうした一連の出来事により、お客様、株主様、お取引先様、従業員とそのご家族などたくさんの方にご迷惑・ご心配をおかけし、信頼を失うこととなりました。これを風化させることなく教訓として、現在の自らの姿を見つめなおし、再発防止を徹底することを誓うきっかけとするため、改めて「9月24日」をエナリスの「誓いの日」と制定することにしました。
会社自身が「不適切な会計処理が発覚」としているにもかかわらず、虚偽記載ではないというのは損害賠償を求めた株主からするとかなり酷だと思います。また、修正前の処理が一般に公正妥当と認められる会計基準に従ったものであるならば、修正後の財務諸表は、基本的に間違っているということになるのではないかと思いますので、訂正した財務諸表に対して監査意見を出した監査法人の立場もありません。
これで確定なのかは不明ですが、株主からすれば全く納得のいかない判決だと思います。