契約負債に流動固定分類は不要?
3月決算会社では今期から収益認識会計基準が適用開始となっており、1Qの四半期報告書の会計方針の変更では、影響額等の記載がなされています。
会計処理の変更のほか、収益認識会計基準等を適用した場合の表示方法の変更についても記載されているケースが多く、従来、前受金や前受収益として計上していたものを当期から契約負債として表示している旨が記載されているものを比較的多く目にします。
あまり考えていませんでしたが、「契約負債」も流動固定分類は必要なのだろうかが今更ながら気になったので、まずは事例を検索してみました。
「長期契約負債」という表示科目を用いている会社があるのかを3月決算会社の第1四半期報告書で検索してみたところ、検索に引っかかったのは、東洋テック、WOW WORLD、AI insideの3社のみでした。
ただ、財規上、流動負債の契約負債は独立掲記が必要な項目として明示されていますが、固定負債には長期契約負債という項目は独立掲記項目として示されていませんので、仮に該当事項があったとしても、四半期報告書では「その他」に含めて表示されていることが考えられます。
会計方針の変更の注記によると上記3社のうち2社は長期前受収益を長期契約負債として表示しているというものだったので、前年同期の四半期報告書において、長期前受収益を独立掲記している会社がどれくらいあったのかを確認してみたところ、該当したのは10社でした。
長期契約負債で該当した3社のうち、長期前受収益で該当したはWOW WORLDのみでしたので、前期長期前受収益として区分掲記していた残りの8社(1社は非公開化のため対象外)が収益認識会計基準適用後にどのような表示を用いているのかを確認してみることとしました。
1.ソースネクスト、ガーラ、バナーズ、乾汽船、オリジン(5社)
前受収益、長期前受収益を継続して用いており、流動負債にも「契約負債」は存在しません。
2.ピー・シー・エー
会計方針の変更(一部)で以下のように記載されています。長期前受収益も含めて流動負債の「契約負債」に含めて表示する方法に変更しています。
収益認識会計基準等を適用したため、前連結会計年度の連結貸借対照表において、「流動負債」に表示していた「前受収益」、「流動負債」に表示していた「その他」に含まれていた「前受金」及び「固定負債」に表示していた「長期前受収益」は、当第1四半期連結会計期間より「流動負債」の「契約負債」に含めて表示することといたしました。なお、収益認識会計基準第89-2項に定める経過的な取扱いに従って、前連結会計年度について新たな表示方法により組替えを行っておりません。さらに、「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号 2020年3月31日)第28-15項に定める経過的な取扱いに従って、前第1四半期連結累計期間に係る顧客との契約から生じる収益を分解した情報を記載しておりません。
3.ダイヤモンドエレクトリックホールディングス
会計方針の変更(一部)で以下のように記載されています。長期前受収益も含めて流動負債の「契約負債」に含めて表示する方法に変更しています。
収益認識会計基準等を適用したため、前連結会計年度の連結貸借対照表において、「流動負債」の「その他」に含めて表示していた「前受金」及び「前受収益」、並びに「固定負債」に表示していた「長期前受収益」は、当第1四半期連結会計期間より「流動負債」の「契約負債」に含めて表示することといたしました。なお、収益認識会計基準第89-2項に定める経過的な取扱いに従って、前連結会計年度について新たな表示方法により組替えを行っておりません。
4.JTOWER
会計方針の変更(一部)で以下のように記載されています。長期前受収益も含めて流動負債の「契約負債」に含めて表示する方法に変更しています。
収益認識会計基準等を適用したため、前連結会計年度の連結貸借対照表において、「流動負債」に表示していた「前受収益」及び「固定負債」に表示していた「長期前受収益」のうち、顧客との契約から生じた残高については、当第1四半期連結会計期間より「契約負債」に含めて表示することといたしました。この結果、前連結会計年度の連結貸借対照表において、「流動負債」に表示していた「前受収益」2,318,750千円のうち、2,295,242千円及び「固定負債」に表示していた「長期前受収益」4,985,825千円のうち、4,861,212千円は、「契約負債」7,156,455千円として組み替えております。
結果として、従来通りの表示科目を継続しているケースの方が多いものの、「契約負債」に表示方法を変更している会社では、流動固定分類をすることなく、従来の長期前受収益も「契約負債」に含めて表示しているケースが多いということになります。
従来から「前受金」を使用してた会社では、正常営業循環基準を適用し、長短分類を行っていなかったケースが多いのではないかと思われますが、「契約負債」も同様の考え方によるのではないかと思います。財務諸表の利用者にとっては、1年以内か否かだけであっても、長短分類を行うことによって金額の把握ができるのであれば有用な情報だと思いますので、従来長短分類していたものを流動負債の「契約負債」に集約するのが妥当なのかという問題はあるものの、年度の財務諸表では残存履行義務に配分した取引価格について一定の注記が必要とされていますので、こちらの注記で補完可能だと思われます。
事務処理の負担を考えると、BS上は「契約負債」一本で処理するというのがよいように思います。3月決算会社では手遅れですが、12月決算会社で該当するような場合には、あらためて検討してみるとよいかもしれません。