監査手続きと報酬に納得できずに監査契約を合意解約したオークファン
先週金曜日(2016年10月14日)の午後23時45分に東証マザーズに上場している(株)オークファンが”会計監査人の異動および一時会計監査人の選任に関するお知らせ”という適時開示を行いました。
会計監査人の異動自体はそれほどめずらしくありませんが、一時会計監査人の選任が必要となるのは、不適切な会計処理が発覚した後、従来の会計監査人が辞任したような場合など、何らかのトラブルがあった場合が通常です。
同社については特に不適切な会計処理が発覚したというようなことはなかったはずなので、何事かと適時開示の内容を確認するとなかなか興味深い内容となっていました。
上記の開示資料の「異動の決定または異動に至った理由および経緯」では以下のように述べられています(一部抜粋)。
当社は、平成 29 年9月期を初年度とする新中期経営計画を策定中であり、今後の新規事業等を含めた事業展開を踏まえてコストの見直しを図っております。
そのような中、有限責任 あずさ監査法人(以下、「あずさ監査法人」といいます。)とは当期の監査費用について、未だ合意できていないため覚書の締結に至らず、平成 28 年9月に平成 27 年9月期及び平成 28年9月期における他社との売上高 30 百万円営業利益 3 百万円の特定の取引及びその類似取引について、あずさ監査法人から追加的な監査手続の実施の申し入れがありました。当社としては誠実に対応し、現在までの監査役会の調査では重要性は低いと思われる類似取引についても、現在監査役会及びその下部組織と
して社外の専門家を入れたワーキンググループで調査を行っておりますが、あずさ監査法人により追加的な監査手続の対象取引全担当者へのヒアリング等を行うことは、当社の収益規模と比較して過大な監査費用の負担となりかねず、それは株主利益の維持という観点から妥当ではないとの結論に至りました。結果として、あずさ監査法人が要求するような監査対応が困難であるとの判断にいたりました。
会社の主張としては、それほど重要ではない取引について、当期分のみならず過去分に遡って追加で監査手続きを実施しようとすることに納得できないし、会社として不要と思える手続きに時間を使って、それが監査報酬に跳ね返るは全く理解できないということのようです。
同社は約3年までの平成25年4月にマザーズに上場していますが、監査報酬の推移を確認してみると、平成25年9月期が900万円、平成26年9月期が1200万円、平成27年9月期が1500万円となっています。
売上は平成25年9月期:751百万円(単体)、平成26年9月期:1,006百万円(単体)、平成27年9月期:1,507百万円(連結)と順調に成長していますが、一方で経常利益は平成25年9月期:301百万円(単体)、平成26年9月期:412百万円(単体)、平成27年9月期:172百万円(連結)と、直前期は平成26年9月期と比較して大きく落ち込んでいます。
平成28年9月期の業績予想は売上高2,567百万円、経常利益318百万円となっています。平成26年9月期の利益率と比較すると見劣るものの、前期との比較では売上の伸びに比して利益も増加しており、順調といえそうです。
上場時の監査報酬は安めにして、その後、徐々に引上げを図るというのはよくあることですし、売上高そのものは伸びているので監査報酬がある程度増加するのはやむを得ないと考えられますが、会社としては毎期300万円ずつ増加している監査報酬に納得がいっていなかったようで、「当期の監査費用について、未だ合意できていない」という事態に陥っていたようです。すでに、当期も第3四半期のレビューまで終了しているので、かなり異常ではあります。
監査を受ける側からすると、なんでそんなに時間がかかるのかなと感じることも多いのも事実ですし、会社にとっては、ほどんど価値がない書類作りに時間をかけ過ぎているように感じるのも事実です。
一方で、分を今さらという部分は確かにあるものの、上記のリリースでいうところの「売上高 30 百万円営業利益 3 百万円の特定の取引及びその類似取引について、あずさ監査法人から追加的な監査手続の実施の申し入れ」に対応するのがそれほど大変なのだろうかという点は疑問であり、このタイミングで監査契約の中途解約に至るというのは、何か探られたくないことがあるのかなという勘ぐりも働きます。
会計監査人が交代する場合、会計監査人の意見が記載されることは少ないですが、今回のケースでは会計監査人の意見も記載されています。
当監査法人は、平成 28 年9月2日に平成 27 年9月期及び平成 28 年9月期における他社との特定の取引及びその類似取引について、追加的な監査手続が必要と判断してその実施を申し入れたものの、会社の十分な対応が得られないまま、同年 10 月7日に会社よりこれ以上当監査法人との監査契約を継続することが困難であるとして合意解除の申し入れがあり、当監査法人においても会社からの監査業務への理解を得ることができないため、監査契約を継続させることは困難であると判断いたしました。
なお、当監査法人は、会社の事業規模の拡大に伴って必要となる監査手続の範囲や内容について説明を行い、追加的な監査手続に相当する部分を除く当期の監査報酬について、覚書の締結には至っていないものの会社と合意に至っております。
過去分に遡って追加手続きを要求しているので、監査法人としては相当程度特定の取引の妥当性について疑義を抱いていることが窺えます。上記から追加的な手続きが必要と判断し手続きの実施を申し入れたのは「平成 28 年9月2日」とされていますが、追加手続きの実施の申し入れ以前に、何らかの疑義を抱いていなかったのかは明らかではありません。上記の記述は第3四半期報告書までは問題ないということだと思いますが、実際はどうなのかは気になります。
いずれにしても、ここまで関係が悪化してしまうと監査の継続は不可能と考えられますが、一時監査人として指名されているアリア監査法人が、あずさ監査法人が必要と判断した追加手続きの実施の要否を含め、どのような結論を導き出すのか気になります。