帳簿等の提示を拒み消費税約38億円の追徴事案が最高裁へ
“帳簿等の不提示を貫き多額の追徴課税処分を受けた納税者が控訴“で取り上げた、税務調査の際に帳簿の提示を拒んで消費税等約38億円の追徴をうけた高裁判決がT&A master No.848で取り上げられいました。
この事案は無予告調査への反発から納税者が帳簿等の提示を拒み続けたことから、仕入税額控除の要件を満たさないとして消費税等約38億円の追徴課税処分を受けたというものです。地裁は処分庁の処分はいずれも適法という判断を下し、納税者はこれを不服として控訴していました。
東京高裁も結論としては控訴人の主張をいずれも斥け、控訴を棄却する判決を下したとのことです。
控訴人は、裁判において、消費税法30条7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れというの税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に提示しないことが含まれると解釈することは拡大解釈であり、租税法律主義に反するなどと主張したとのことです。
これに対して裁判所は、法が採用する申告納税制度の趣旨及び仕組み並びに法30条7項の趣旨に照らせば、税務調査の当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合には、「帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たると解するのか相当であり、法令により帳簿書類を備え付け、記録及び保存義務が課せられていること並びに納税義務者が果たすべき役割及び税務署長が果たすべき役割(申告の審査、税務調査の実施等)は広く国民に知られ、法30条7項は、同項所定の場合には同上1項を適用しない旨、疑問の余地のない明確な文言で定めていることを踏まえれば、上記の様な解釈は国民にとって不意打ちとなるような不透過拡張解釈と言えず、租税法律主義に反するものともいえないとしたとのことです。
法律なので感覚で判断してはいけないものの、保存はしているけど提示していないだけだという主張は通用しないだろうというのが一般的な感覚なのではないかと思います。
最初にこの事案が話題となった際に、約38億円もの追徴処分をうけてまで意地を張った意味がわかりませんでしたが、今回の記事によると納税者側は「本件調査担当者は、控訴人に対して帳簿等の呈示等を求める際、控訴人が仕入税額控除を否認されることを知らないでいることを認識していながら、仕入れ税額控除否認の仕組みを説明教示しなかったから、本件調査における帳簿等の呈示の求めは違法で有り、・・・」と主張したとのことですので、裏を返せば、大変なことになりますよといわれれば意地を張るのをやめたということなのでしょう。
ただ、ここまで頑な態度をとっていた納税者が、仕入税額控除を否認しますよと言われたら素直に調査に従ったのかというはかなり疑問ではあります。そもそも、顧問税理士がいたでしょうから、最悪の場合どうなるのかという話はしていたのではないだろうかという気もします。そのような場合、仮に税理士が楽観的な助言をしていたとしたら今後税理士の責任が問われることになるかもしれません。
また、くだらない意地を張ったことにより約38億円もの追徴課税を生じさせたとなれば、株主構成によっては、取締役の責任についても追及される可能性は考えられます。
前回の記事で、「ここまでやっているのであれば最高裁までいくと考えられます」と書きましたが、T&A master誌が控訴人訴訟代理人にインタビューしたところ「この事件は、最高裁大法廷の舞台にふさわしい事案だと思う」と上告の姿勢を示したとのことです。
駄々っ子に巨額の罰金が課せられたような事案を最高裁で争うととどうなるのか、ここまできたら最高裁で決着をつけてもらえればと思います。