クラウドで提供するソフトウェアの制作費は自社利用ソフトか販売目的ソフトか?
クラウド型のサービスとして提供するためソフトウェアの制作費は、「研究開発費等に係る会計基準」や「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(企業制度委員会報告第12号)でいうところの「市場販売目的のソフトウェア」と「自社利用のソフトウェア」のいずれに該当するのかが今回のテーマです。
上記の基準等は平成11年3月に公表されたものであり、販売するためのソフトはパッケージで販売されるという前提で作成されていると言えます。これだけクラウドが話題となっているのであれば、さっさと改定すればいいのにと思いますが、他にたくさんやるべきことがあるからなのか放置されています。
このため、クラウド型で提供されるソフトの制作費の会計処理においては、市場販売目的のソフトとして取り扱っている会社もあれば、自社利用のソフトとして取り扱っている会社もあるようです。
社団法人情報サービス産業協会(JISA)が、2010年に公表した「近時の情報サービス業界の会計動向に関する調査報告」での調査結果によると、各社で選択している会計処理は以下のような割合であったそうです。
(出典:近時の情報サービス業界の会計動向に関する調査報告の概要 社団法人情報サービス産業協会)
自社利用のソフトとして取り扱うことの根拠は、クラウド型のソフトは、実務指針でいうところの「通信ソフトウェアまたは第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェア等を利用することにより,会社(ソフトウェアを利用した情報処理サービスの提供者)が、契約に基づいて情報等の提供を行い,受益者からその対価を得ることとなる場合」(実務指針第11項)にあたると考えられることや、「サービス提供者のサーバーにインストールされており、不特定多数の顧客に複写して販売されるという市場販売目的のソフトウェアの形式的特徴を備えていない」(ソフトウェアの会計実務詳解:みすず監査法人)ことによります。
自社利用か販売目的かについては、会計関係の書籍では議論があるとしつつも自社利用ソフトとして位置づけられているケースが多いようです。
ただし完全に自社利用ソフトとして取り扱うのではなく、クラウド型のソフトは、実態として不特定多数の顧客に利用してもらうために開発される販売目的ソフトと同様であるため、会計処理としては資産計上の開始時点や償却方法については販売目的のソフトと同様に行うべきというように説明されることが多いようです。
ちなみに、上記のJISAの報告書においても、結論としては「自社利用ソフト」として会計処理するとされていますが、資産計上開始時期や償却方法については、やはり販売目的ソフトの側面も考慮した処理についても述べられています。
分類としては、自社利用ソフトであるが、実態を考慮して販売目的ソフトと同様の会計処理を行うというのが実務指針的にも受け入れやすいと思います。