法人税法上の役員報酬の取扱い(その3)-定期同額給与
”法人税法上の役員報酬の取扱い(その2)-定期同額給与は経済的利益に要注意”の続きで、定期同額給与の残りを確認していきます。
会計期間3月経過日等までの改定と報酬の支給日
大原則としては事業年度の期首から引き続き同額であるのが、定期同額給与ですが、株主総会決議を経て役員報酬が改定されることも多いので、「その事業年度の開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日までにされれた定期給与の額の改定」の場合は、改定前後で報酬額が変化しても定期同額給与として取り扱うことができます。
ここで問題となるのは、役員報酬の支払日が月末の場合に、6月下旬の株主総会を経て役員報酬が改定された場合、6月の役員報酬は改訂後で支給しなければならないのかですがこの点については、国税庁の「役員級給与に関するQ&A」のQ2で7月末から改訂後の額で支払うことで問題がない旨が示されています。
では逆に、事業年度開始後3か月以内に改定を決議しさえすれば、実際の報酬の改定が事業年度開始後7か月目というようなことも可能なのかということになりますが、このようなケースでは定期同額給与とは認められないこととなる可能性が極めて高いといえます。
定期同額給与を法定の改定事由以外で改定した場合の取扱い
定期同額給与を法定の改定事由以外で改定した場合、損金算入が認められない部分が生じることとなります。
役員報酬を法定の改定事由以外で改定した場合、増額した報酬額×改訂後の月数が損金算入が認められない金額となります。
一方で、役員報酬を改定事由以外で減額した場合、減額した報酬額×改定前の報酬月数が損金算入が認められない金額となります。つまり、減額後の月額報酬が事業年度を通じた定期同額給与と認められるということです。
したがって、事業年度の終盤に法定の改定事由以外で役員報酬を増額した場合と減額した場合では、損金算入が認められない金額に大きな差が生じる可能性があるので注意が必要です。
業績悪化改定事由
法定の改定事由として認められている業績悪化改定事由は、会社の経営状態が著しく悪化した等の理由により、役員給与が減額されることによる改定を意思します。
財務諸表の数値が相当程度悪化した場合や倒産の危機に瀕している場合のほか、以下のようなケースも通常、業績悪化改定事由に該当するとされています(「役員給与の関するQ&A」Q1)。
- 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 業績や税務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
上記の三つの例については、以下の点に注意が必要です。
1.については、「株主が不特定多数の者からなる法人であれば、業績等の悪化が直ちに役員の評価に影響を与えるのが一般的」とされていますが、一方で「同族会社のように株主が少数の者で占められ、かつ、役員の一部の者が株主である場合や株主と役員が親族関係にあるような会社」については、「役員給与の額を減額せざるを得ない客観的かつ特別の事情を具体的に説明できるようにしておく必要がある」とされています。
2.については、「取引銀行との協議状況等により、これに該当することが判断できるものと考えられます」とされていますが、裏を返すと「取引銀行との協議状況等」が議事録等何らかの形でまとめられている必要があるといえます。
最後に3.は「策定された経営状況の改善を図るための計画によって判断できる」とされており、「利害関係者から開示等の求めがあればこれに応じられるもの」とされていますので、文書としてまとめておくことが必要となります。