東証時価総額上位500社の取締役・執行役の報酬に占める業績連動報酬割合は約3割
大和総研が2020年11月12日に公表した「役員のインセンティブ報酬拡大と開示動向~改正開示府令への対応状況~」において、東証上場企業の時価総額上位500社を対象とした役員報酬の分析結果が記載されていました。
東証上場企業の時価総額上位500社を機関設計別に分類すると、監査役会設置会社が359社、監査等委員会設置会社が97社、指名委員会等設置会社が44社となっています。
監査等委員会設置会社に移行した会社が多いというのは理解していましたが、個人的には、社外取締役を複数選任するのを負担と感じている中堅以下の会社が多いのだろうと思っていたので、時価総額上位500社でみても約100社が監査等委員会設置会社であるというのは意外でした。
まず、これらの会社における取締役・執行役の報酬にしめる業績連動報酬の割合は約3割とのことです。個人的には業績連動報酬というと、株式報酬を連想してしまいましたが、ここでいう業績連動報酬には賞与も含まれており、内訳としては約3割のうち2割が賞与等、1割が株式報酬等と賞与等が大きな割合を占めているそうです。
このレポートでは、「欧米と比較すると、米国では9割、欧州では7~8割が業績連動報酬であるというデータもあり、我が国の業績連動報酬の割合は比較的低いといえる」とされています。
しかしながら一方で、役員報酬の水準について、「わが国の役員報酬の水準は欧米と比べて低いと言われている。事実、取締役や執行役の平均報酬額は数千万円となっている。欧米と比較すると、米国ではCEOの報酬額が10億円以上、欧州でも5億~7億円ほどであるというデータがある。これは我が国の各企業における全役員の平均合計報酬額と同じ程度の水準である。わが国の報酬額は比較的少ないことがわかる」と述べられています。
欧米の役員報酬の水準が妥当なのかは置いておくとして、10億円の9割が業績連動報酬であっても、裏を返せば固定報酬額が1億円あるということですので、そもそも役員報酬の水準が欧米よりも低い水準にある日本において、業績連動報酬割合を欧米と比較することにあまり意味はないのだと思います。
CGコードを意識して、株式報酬などの業績連動報酬を導入する会社では、導入時に従来の固定報酬の枠を減額し、その分業績連動報酬を導入するというようなケースが比較的多いように思いますが、欧米の状況を鑑みるとすれば、業績連動部分は従来にアドオンするか、従来の報酬の一部を減額するとしても、全体しての枠は広げるというようにするのがインセンティブとしてはよいのだろうと思います。
ちなみに、監査役会設置会社359社の取締役(社外取締役を除く)の平均員数は8.2人で1人当たりの平均報酬額は56.8百万円、監査役社外監査役を除く)の平均員数は2.2人で、平均報酬額は21.2百万円とのことです。
時価総額上位500社ともなると、監査役といえども平均報酬が2千万円を超えているというのは、個人的にはなかなかの水準だと感じます。
また、監査等委員会設置会社(97社)の取締役(監査等委員、社外取締役を除く)の平均員数は11.3人、平均報酬額は32.1百万円、監査等委員(社外取締役を除く)の平均員数は1.4人で平均報酬額は23.0人とのことです。
取締役(監査等委員、社外取締役を除く)の平均報酬は、監査役会設置会社の取締役の平均報酬と比較すると56%程度と大きく差がついていることから、監査等委員会設置会社は時価総額上位500社のうち、どちらかというと規模の小さい会社が多いものと推測されます(時価総額大きいので報酬が高いとは限りませんし、役員報酬ランキングで上位に入っているような会社の影響もあるとは思いますが・・・)。
次に業績連動報酬に用いられている指標は、多い順に営業利益(226社)、当期純利益(164社)、ROE(96社)、売上高(94社)、経常利益(85社)となっているとのことです。
日本では「経常利益」が比較的注目されるように思いますが、営業外損益と特別損益との区分は曖昧な部分もあるので、業績連動報酬を決定する指標としては採用されにくいということなのかもしれません。
なお、少し変わったところでは「従業員の賞与額・従業員満足度」を指標に用いている会社が12社存在するとされています。
最後に、株式報酬を導入している会社で、もっとも多いのは株式交付信託の143社で、これにRS・RSU(114社)、ストック・オプション(113社)と続いているとのことです。これもRS・RSUかストック・オプションが最も多いのではないかと思っていたので意外な結果でした。
このレポートでは株式交付信託の採用数が多くなっている理由として、「業績連動や譲渡制限といった仕組みに合わせられ自由度が高いと言われている、株式交付信託の採用企業が多い」と述べられています。株式交付信託についてもきちんと理解を深めておいたほうがよさそうです。